Opinion : 新幹線の保守基地公開に行ってみたら (2013/10/14)
 

先日 (2013/10/12)、東鷲宮にある東北新幹線の保守基地を一般公開するイベントがあるというので、何か仕事の役にも立つんじゃないかと思って行ってみた。そしたら、期待を上回る大収穫だった。

それなりに賑わっていたものの、さすがに押すな押すなの大騒ぎというほどでもなくて、ほどほど。だから、見る方もオーガナイズする方も、あまりピリピリしてなくて、いい雰囲気。

それはともかく、印象的だったのが、説明についている方が皆さん、えらく親切だったこと。ひとつ訊くと 10 ぐらいの答えが返ってくる感じだし、「じゃあ動かしてみましょうか」といって、いきなり四頭タイタンパーが動き始めたり、道床交換作業車に設けたホッパにバラストを積み込み始めたり。(レール削正車とレール切断/溶接と高所作業車のデモは、もともと予定していたものだけれど)


思うにこれは、普段はなかなか陽の当たらない職場 (新幹線の施設保守は基本的に夜間作業だから、文字通り陽の当たらない職場である… おっと) だからこそ、自分達の仕事について知って欲しいという思いが強く出ていたのかもしれない。

もちろん、業界・業種によっては「目立たない方がいい」ということもある。その極めつけがインテリジェンスに関わる国や軍の組織で、誰がいったか "NSA = No Such Agency" とは言い得て妙。でも、世の中、そんな業界ばかりというわけでもない。

そもそも、存在が知られていない業界や会社だと、そこに就職しようとしたときに周囲が止める、なんていうことも起きる。その結果として、優秀な人材を取り逃がすことにもなりかねない。

今では信じられない話かも知れないけど、かつては「マイクロソフトに転職する」といったら「そんな聞いたこともないような会社に行くのは止めろ」と周囲が引き留めた、なんていう実話があるぐらい。これは、それを振り切って入社してきた社員の述懐による実話。

これはいささか極端な例だけれども、さまざまな業界・業種で事業所や施設の一般公開をやるのは、当然ながら、存在や仕事の内容について知ってもらいたい、理解を深めてもらいたい、さらに人材の獲得にもつながればいいなあ、という思惑があるのだろうし、それは当然のこと。

それは新聞・テレビ・雑誌・書籍などへの取材対応でも同じこと。自分も車両基地の仕事を題材にした本が書いたことがあるけれども (京王電鉄・東京地下鉄・ひたちなか海浜鉄道の皆さん、その節はお世話になりました)、やはり「普段は目にしたり聞いたりできない現場の話」を紹介するところに重点を置いたつもり。

その取材の席でもやはり、うまいこと話を振っていくと、「ぜひこれを聞いてくれ」といわんばかりの調子で (?) いろいろと貴重な話を聞かせてくれたもの。やはり、自分達の仕事に対する誇りもあるだろうし、それを知ってもらえればという思いもあるのだろうし。

裏を返せば、差し障りのない範囲でそれを伝えていくのが、自分みたいなポジションの人間の仕事であるわけで。まして自分の場合、「専門家とフツーの人の間の通訳」を標榜しているぐらいだから、技術的な話、原理原則の話、そして現場の話など、まだまだ発掘し切れていないテーマはいろいろあるはず。


ただし難しいのは、あくまでこちらも商売でやっているということ。「これは知っておいて欲しい話だよなあ」と思っても、商売として企画が成り立つかどうかは別。そこでどう折り合いをつけて、どういう切り口でやっていくか、ということはいつも考えている。同じテーマでも切り口次第で商売になったり、ならなかったりするだろうから。

そんなこんなで、保守基地の一般公開を訪れて現場の型のお話を伺ったことが、なんだか自分の仕事の原点を再確認させられる結果につながったなあ、と妙に殊勝な感想を抱いたところで、今回はこの辺で。

やはり「専門家とフツーの人の通訳が要るよなあ」と再認識したのが、バードストライクで機体にへこみができたために欠航が生じたピーチの一件について「そんなことでへこむものなんでしょうか ?」と書いて集中砲火 (?) を浴びた朝日新聞の件。

ただしこの件の場合、バードストライクの怖さを知らなかったことよりも、「鳥がぶつかったぐらいで凹む飛行機って欠陥品なんじゃね ?」といわんばかりの調子だったことが叩かれる原因になったのかも。

そこで、「胴体の外板の厚みは…」なんて話をしたら、どんな反応が返ってきたことやら。飛行機じゃなくて軍艦でもいいけれど。

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