Opinion : フィリピン向け人道支援・災害派遣に関する徒然 (2013/11/18)
 

情報活動の世界に「インテリジェンスの政治化」という言葉がある。

なんでいきなりこんなことを書いたかというと。台風で大被害を受けたフィリピンに日米英加豪あたりが主体になって、大々的な救援活動を展開している件について、「被災地救援ぐらいは政治抜きでやるべきだ」なんて主張をしている人がいるのを見かけたから。

一見したところでは「人道的見地が最優先で、他の要素は排除するべき」という気高い正論に見える。でも、身も蓋もないことを書けば、災害派遣と政治を完全に切り離すなんて無理。

政治が動かなければ組織的な災害救援はできないし、自力ですべて賄えなければ外国からの支援に頼るのは必然。そうなれば、いずれにしても何某かの政治的要因は絡んでくるものだし、結果的に政治的な影響が生じる。それに、被災後の復旧・再建にだって政治的要因は絡んでくる。当事者に「そのつもり」がなくても、結果的に政治的インパクトが生じる部分もある。

はっきりいってしまえば「日米英加豪あたりが主役で、しかも日本は自衛隊をかなりの規模で派遣しているから、それが気に入らなくて文句つけたくなっただけなんじゃないの」と思う次第。それに、「政治的プラス効果を狙って災害派遣を行うのが怪しからん」というなら、同様に、「政治的対立があるからといって災害派遣を出し渋るのも怪しからん」というべきであろう。

もちろん、今回の災害派遣を通じて支援国への親近感や支持が広まる可能性は少なくないと思われる。それは結構なことだけれど、そこから「プレゼンスの増大」まではいいとして、さらに「対中包囲網」にまで話を広げれば、それは例の「何でも対中包囲網に結びつけたがる "熱中症" 患者」でしかない。と、それはそれとして。


で、その中国の話。被災直後に人道的支援提供を申し出たものの、他国と比べるとその規模は小さく、現時点では若干の物的支援に留まっている。それについて、Reuters で「中国ネット上でフィリピン支援反対の声、外務省『世論反映せず』」との記事が。なんだか意味不明な日本語の見出しだけれど、本文を見ると意味が分かるので、少し引用させていただく。

中国外務省の秦剛報道局長は 14 日、台風 30 号が直撃したフィリピンに対し、中国政府は援助すべきではないとの声がインターネット上で広がっていることについて、ほとんどの国民の意見を反映しているものではないとの見方を示した。
(中略)
秦氏は定例記者会見で、「あなた方がネット上で、どれほどのコメントを見たかは分からないが、フィリピンの置かれている状況を理解し、同情を感じている中国国民が大多数を占めていると信じている」と述べた。

つまり、「世論反映せず」とは「ネット世論に影響されて支援を出し渋ったわけではない」という意味であるようだ。ただ、当事者は「そんなことはない」と思っているようだけれど、他国と比較すれば、規模が小さく、動きが鈍いのは否定しがたい。(なんて書いていたら、今頃になって「援助隊派遣」の話が出てきたらしいが)

それはともかく、「ネット世論に突き上げられて支援を出し渋った」のでなければ、そっちの方が、なお悪い。だってそうでしょう。ネット世論に突き上げられるという「受動的出し渋り」ではなくて、自らの意志に基づいて決めた「能動的出し渋り」ということになるんだから。

そもそも中国は、資源獲得などの場面でインフラ建設への資金援助や武器輸出といった「飴玉」をワンセットにするのがお約束。その中国が、政治的対立関係にある国に対しては天災というお国の大事に際しても支援を出し渋る、という印象が定着すれば、それは中国にとって利益にならない。外務省の報道局長殿は、そんなことも分かっていないのだろうか。

しかもその一方で、日本の自衛隊派遣については大声を上げて非難している。非難するぐらいなら、カウンターとして自国がもっとプレゼンスの大きい支援をすればいいと思うのだが、なぜかそうしていない。中国海軍にしてみれば、自国の遠征・外征能力を非難されにくい形でアピールする、絶好の機会だろうに。


ただ、そこで「対立関係にある国への被災支援まで出し渋る、尻の穴の小さい中国政府」を叩くだけなら、誰でもできる。問題は、中国政府がどうしてそういう行動を取ったか。むしろ、そっちの方が問題。

「災害派遣の出し渋りが政治的損失になるという認識がない」「そもそも出し渋りだという認識がない」に加えて「出し渋りが政治的損失になることは承知の上で、意図的にやった」というシナリオも考えられる。どれが本当なのかはともかく、表面的な行動や言動よりも、その背後にある意図・意志に注意する必要があると思う。何気ない仕草・徴候にこそ本音が出る。

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