Opinion : しつこいけれど、飛び道具の話だけでは足りない (2013/12/16)
|
次期中期防をめぐる報道の中で「V-22×17 機を導入」という話が出てからこちら、またあちこちで騒々しい状況になっている様子。同機をプッシュする人もいれば、アンチもいるわけで、それぞれの立場であーだこーだと論陣を張っている。
でも、機体そのものの能力に関する話をする人は多いけれど、しばしば書いているように、ハードウェアが存在するだけでは戦力にならない。そこのところの議論がすっぽり抜け落ちている人が多くないかなあ、というのが正直な印象。
なにも V-22 に限らず、どんな装備品でも同じことだけれど。いや、自衛隊の装備に限らず、個人の買物だって同じことである。
無論、「V-22 をプッシュしている誰かさんのことが気に入らないから、坊主憎けりゃなんとやらで V-22 もぶったたく」なんていうのは論外である。その逆も似たようなモノではあるけれど。
|
個人的には V-22 という機体、「ヘリコプターと同じ仕事を、ヘリコプターより速く、ヘリコプターより遠方から行える機体」だと考えている。ティルトローターという「異形の飛行機」だから、何か従来の固定翼機や回転翼機とは全然違う機体なのかというと、そういうわけではないだろうと。
V-22 の開発に苦労した当事者を腐すつもりは毛頭ない。「より速く、より遠方から」を実現するには既存の回転翼機の枠をぶち破る必要があり、そこでティルトローターという解決策を見出してモノにするまでの努力は、素直に評価されてしかるべき。
で。米海兵隊が立体包囲攻撃を仕掛ける場面では、「より速く、より遠方から」というメリットは「揚陸艦を従来より遠方に配置しても、現在と同様に任務をこなすことができて、しかも飛行中の脆弱性を低減できる」というメリットにつながるから、米海兵隊が MV-22B の導入を希求したのも宜なるかな。
ただしそれは、まず「両用戦における立体包囲攻撃」という戦い方、運用コンセプトが先にあって、それを実現する手段として何が最適か、という順番で話が進んだ結果であることを忘れてはいけないのでは。
何でもそうだけれども、まず先行すべきは想定脅威と、それに対する対処の方法。そして、それを具現化する運用コンセプト。それがあって初めて、求められる機能や能力を定義できるし、その定義がなければ、どんな飛び道具が要るかなんて決められない。
「島嶼防衛にオスプレイ」というなら、島嶼防衛に際して直面する脅威の見積もりや、それへの対処をどういう形で実現するのかという話が先決。もっとも、そういう話は公になるものではないだろうけれど。
ときには技術的限界が機能や能力の限界につながり、運用コンセプトの見直しにつながることだってあるはず。そしてもちろん、飛び道具の能力をフルに発揮するためには、教育・訓練・兵站支援の体制も重要。
たとえば「陸自に MV-22B を配備します」となったときに、どの程度のインフラ整備が必要なのか、パイロットはどういう体系の下で訓練するのか、固定翼機出身者がいいのか、回転翼機出身者がいいのか。転換訓練や日頃の錬成をどこでやるのか。兵站支援業務はすべて自前なのか、ある程度はメーカーに委託するのか。自前でやるなら、そちらの要員の養成はどうするのか。そういう議論をしている人って、どれぐらいいるだろう。
しつこいけれども、飛び道具だけでなく、それを使いこなす人材、兵站支援体制、飛び道具の能力にマッチした運用コンセプト・教義・戦術・手順・技術。そういった要素が出揃って、ちゃんと噛み合って、それで初めて「有効な戦力」になるんじゃないのかと。
それに、(島嶼防衛や両用戦に限ったことではないけど) 陸・海・空の統合運用が当たり前になり、任務様態によってはさらに軍以外の政府機関や民間組織まで関わってくる状況が普通になった昨今では、さまざまな組織が一緒に動くときの「摩擦」の低減という課題もあるはず。
なにも日本だけの話じゃない。アメリカでも、空母に陸軍のヘリや特殊作戦部隊を載せて任務に就けてみたら、いろいろと「カルチャーの違い」が露見した様子。だいたい、トイレの流し方とか節水に対する意識とか、そういう細々したところですら「陸」と「海」では違うのである。
それがいいとか悪いとかいうのではなくて、「カルチャーの違いをどう乗り越えて真の統合運用を実現するかが重要」という話なので、お間違いのなきよう。ただ単に、ひとつの指揮系統の下に入れて一緒に動かせば統合運用の実現、ってわけでもなかろうし。
飛び道具は、もっとも目立つ、象徴的な存在だから、持ち上げるにしても槍玉に挙げるにしてもネタにされやすい。でも、それだけ見ていても足りないんじゃないのかなあ、他にも、考えないといけないことはいろいろあるんじゃないのかなあ。ということを改めてしつこく書いたところで、今日はこの辺で。
|