Opinion : 不人気の海外ネタと複眼思考に関する徒然 (2014/1/27)
|
最初は、以前にもちょっと言及した時事通信のスットコドッコイ記事を肴にしようかと思ったけれど、その話はまたそのうち、ヒマネタとして使うかもしれないということで。で、今日は別の話を。
今売りの「鉄道ジャーナル」誌 (2014/3 号) で、フランスにある Alstom の工場を取材した記事が載っている。そして、取材したのは TGV Euroduplex の製作現場。
基本的に日本の鉄道趣味誌業界では、海外ネタは国内ネタと比べると人気がない。多分、そういう事情もあってか、誌上で最初に出てくるのは日立笠戸で、その次が Alstom という順番。それでも、よく取材させてくれたと思うし、Alstom を取材しようと企画しただけでもすごいと思う。
その記事を読んで改めて思ったのは、視野の広さというか、複眼的な思考って大事じゃないかなあという話。ちょうど先日、EU が日本に「鉄道分野の市場開放を要求」なんてニュースが流れていたし、それより少し前には JR 東日本が常磐緩行線向け CBTC の設計担当を Thales に選定した、なんてニュースもあった。
身も蓋もないことを書けば、よしんば海外企業に門戸を開いたからといって、雪崩を打って海外勢が日本市場を席巻することはないと思う。ただし、だからといって「欧州勢が日本市場に参入できない = 日本勢は欧州勢より優れている」と考えてしまったのでは、単純な短絡思考の度が過ぎるとも思う。
もちろん、TGV Euroduplex を日本の線路に持ち込んで、フランスと同じ 320km/h 運転なんかやれば、軸重 17t の動力車が線路を痛めつけるのは明白だし、さらに空力騒音をまき散らすことになりそう。正直いって、日本の環境で使える車両じゃあない。でも、どこか他所の国では問題ない or 最適解、ということもあり得る。
とどのつまり、新幹線は日本の国情に合わせて進化してきたし、TGV や ICE はヨーロッパの事情に合わせて進化してきたわけで、そもそも背景にある状況も要求も思想も違う。それを自国の土俵だけを基準にして「自国の事情に合わない = ダメ」と即断するのは、夜郎自大の独りよがりもいいところ。
少なくとも、最高速度とかなんとかいう見た目のスペックだけでなく、その背後にある「お家の事情」や「設計思想」にまで目を向けてみることは必要ではないのかなあ、と思う次第。なにも、海外の車両を礼賛して日本の車両を腐せ、なんてことはいわないし、そんなことをする必要はない。(自動車評論家業界は、どうもこの手の傾向が強いように思えてならないのだけど)
ただ、井の中の蛙がなんとやらにならないためにも、海外のモノにもちょっとは目を向けてみていいんじゃないの、とはいいたい。
日本にない要素技術を使っていることもあるし、日本より先行しているところもあるし、逆に日本が先行しているところもある。そういう「違い」を、海外の車両という新たな尺度を交えて認識することには意味があるし、それによって日本の製品や技術の「良さ」に対しても、認識を新たにできるのではないかと。そうやって状況を認識しないと、そのうち足元をすくわれることになると思う。
だから、絶対にやっちゃいけないと思うのは、ちゃんとした互いの比較もやらないで、目の前にある自国内の状況「だけ」を見て「日本の製品や技術は世界一ィィィィ、外国勢に学ぶモノなんてないもんね !」とのぼせ上がってしまうこと。
なにも鉄道業界に限らず、飛行機でもウェポン システムでも自動車でも家電製品でも、みんな同じ。日本勢だけでなく海外勢だって、市場を制覇しようとして必死になっているのだから、過去の実績に甘えて天狗になっていたのでは危なすぎる。
自国の需要に合わせて自国の技術を駆使して開発をする。それはいいんですよ。ただ、自国の需要に合わせて自国で開発したモノ「だけ」を見て「自国の装備は世界一ィィィ」といいだすようなことになれば、首をかしげざるを得ない。
ましてや、同じような内容のものでも、他国が作ると腐すのに、自国が作ると礼賛するのでは、もうお話にならない。最近のネタだと、機動戦闘車がらみで「戦車砲並みの火砲を備えた装輪 AFV」に関して、そんな傾向がありはしないかと気になっている。
「自国の内情」「自国にあるモノ」「自国の視点」といった観点からだけ物事を見るのではなくて、「他所ではどうなっているのか」「他国の立場から物事を見たらどうなるのか」といった意識でもって複眼的なモノの見方をすることは、ことにインテリジェンスの世界では重要。
たとえば、メーカーや国の機関が出す声明ひとつとっても、「こちら側」から眺めるのと「あちら側」から眺めるのでは見え方が違ってくる。そして「あちら側」の視点も持たないと、相手の真の意図が見えてこない。表面的な字面だけ見て、それに囚われたら、とんだ情報判断のミスにつながりかねない。
|