Opinion : トップの仕事と現場の仕事 (2014/2/24)
 

先週末の大雪騒ぎのときに、「安倍首相の天ぷら」バッシングなんてのがあったそうな。なんか既視感のある騒ぎだと思った。

なんていっていたら、その後で今度は「埼玉の県知事が、秩父市からの自衛隊出動要請を却下した挙句に、クイズ大会などのイベントに出ていた」と難詰するような報道もあった様子。

正直いって、この手の話を聞く度に「なんかピントを合わせる場所がずれてるんじゃないか」と思う。


首相でも県知事でも社長でも司令官でもなんでも、「トップが不眠不休・食うや食わずで陣頭指揮を執る姿」が評価される、良しとされる、ということなんだろうか。そうでないと、冒頭で言及したような非難は出てこないんじゃないかと思う。

でも、現実問題としてどうだろう。二種類の問題に分類できるのではないかと考えたので、まずひとつ目。つまり「陣頭指揮」の良し悪し。

どういう肩書であれ、それなりに大きい組織のトップが常に不眠不休で最前線に立って指示を飛ばしまくるのが、果たして正しい姿なのかどうか。それをあえて問い直してみたい。つまり、トップが現場の細かいところまで首を突っ込んだら、それはマイクロマネージメントであって、却って現場にとっては迷惑なのではないかということ。

そういえば、第二次世界大戦中に某国海軍の某提督は、旗艦の艦橋の上に司令部専用のスペースをしつらえて、そこから文字通り、頭ごなしに指示を飛ばしていたという話がある。ときには、自艦に向かって駛走してくる魚雷を発見したときに、(艦長ではなくて) 司令官が回避操舵の指示を出して、艦長が「本艦の館長は私です」といって司令官の指示をオーバーライドしたこともあったとか。

こうなると迷惑どころの騒ぎではなくなる。昨今みたいにネットワーク化が進んで、最前線から上級司令部まで実況中継できるようになると、上の方の人間は、口出ししたくなるのをグッと堪えないといけない場面が多そう。

筋論からいえば、トップの仕事は、現場が仕事をしやすいように方向性やビジョンを示した上で、仕事をするために必要な環境やリソースを整えること。現場のことを何も知らないのも問題だが、逆に現場目線でしか物事を考えられないのもどうかと。

「現場のことは現場の人間がいちばんよく分かっているのだから、いちいち細かい指示は出さない」というぐらいでちょうどよいのでは。逆に、現場よりも後方のトップの方が現場の状況に詳しいなんてことになれば、それは根本的に何かがおかしい。

無論、これはそれなりに大きい組織の場合。町工場みたいに組織が小さい場合には、トップが現場で仕事をするのが普通なわけで、それはまた話が別。要するに、小隊長や中隊長に求められる指揮と、軍団長や軍司令官に求められる指揮は違うでしょ、という話である。為念。

といったところで、ふたつ目。それが「不眠不休・食うや食わず」が美徳なのかどうかという話。

これも組織の大小が関わってきそうな話だけれど、組織が大きくなるほど、トップの責任も重い。トップが判断ミスを犯したときに迷惑する部下が増えるし、場合によっては多数の人命にも関わる。

では、その判断ミスが、不眠不休による疲労によって引き起こされたものだったら、どうするのかと。たとえばの話、軍団長や大艦隊の司令官が判断ミスをすれば、万単位の兵士の生命に影響が及んでしまう。

モノの考え方が間違っていたとか、前提となる知識や情報が欠落していたせいで判断ミスを犯すのは、また別の問題だし、それは組織の大小を問わない。でも、大組織のトップが疲れて判断ミスを犯すような事態は、影響する範囲の大きさを考えれば避けるべき。となると「寝てばかりいた」と形容されるスプルーアンス提督を少しは見習え、という話になる。


ともあれ、首相だろうが県知事だろうが、問題なのは、ちゃんと必要な指示をしていたか、その際の判断や状況認識に間違いはなかったか、というところ。「不眠不休・食うや食わずの陣頭指揮」という姿勢を見せていたかどうかが問題じゃない、と書いてみたかった次第。

たとえば埼玉県知事の件であれば、イベントに出るのはいい。ただしそれは、状況を的確に認識して、必要な指示をちゃんと出していればのこと。情報収集や指示、必要なリソースの手配といった仕事を放り出してクイズ大会に出ていたのなら、それは非難されても仕方ないと思うけれど。

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