Opinion : 武器輸出と情報活動 (2014/3/3)
 

ロイターが報じたところによると、トルコの新型戦車に搭載するエンジンを日本のメーカーと共同開発する話が、政府間交渉の打ち切りで棚上げになった由。

なんでも、開発したエンジンを搭載した戦車を第三国に輸出する場面で、トルコがフリーハンドを求めたのに対して、日本側が事前承認を求めて、それで折り合いが付かなかったのだとか。ただ、コンポーネントのレベルで他国製品を使っているときに、製造元の国から輸出許可を取る必要があるのはこの業界の常だから、これは日本側の主張に理がある。

そのトルコで、反政府デモに参加した人を某財閥系列のホテルが匿ったのが首相の逆鱗に触れて、同じ資本系列のメーカーに発注していた装備開発計画がボツになった、との話が取り沙汰されている。これについては以前に「丸」で「装備調達の政治化」と題して取り上げた。

ロクでもない話だと思うものの、その一方で、そもそも軍備や装備調達が政治と切って切れない関係にあるのも、また事実。


マイナビニュースで「防衛産業ウォッチング」を連載した動機のひとつに、「モノが良ければ売れる、なんて考えていたら大間違い。武器輸出三原則等の解禁で、直ちに日本製品に引き合いが続々、なんてことはあり得ない」と釘を刺す、というのがあった。

前述したように、政治とまったく無縁ということはあり得ない業界なのだから、それだけでもう、「モノさえ良ければ」どころの話じゃない。さらにライバルは多いし、オフセットなどの条件設定は厳しくなる一方だし、そうした中で勝ち残るのは簡単じゃないよ、という話になる。

前述したトルコの話以外でも、たとえば「政権交代があると、前政権時代の装備調達に新政権が物言いをつけ始める」とか、「装備調達計画そのものは維持しても、『前政権時代にはこんなにスケジュール遅延やコスト超過が起きていたのに、新政権になってからは解消した』とアピールする」とかなんとか、政争や政局のネタにされる事例はひきもきらない。

アメリカあたりだと、何かの案件で複数のメーカーが競合したときに、それぞれのメーカーの地元を地盤とする議員同士が大舌戦を展開するのはお約束。KC-X ではアラバマ (EADS が組立工場を設置することにしていた州) の議員が露骨に「EADS 推し」で、ワシントン州 (いわずと知れた Boeing の地元) の議員とやりあっていた。

多分、沿岸戦闘艦 (LCS : Littoral Combat Ship) を 32 隻で打ち止めにする話が確定したら、これも GD/Austal 陣営の地元を地盤とする議員と LM/Marinette Marine 陣営の地元を地盤とする議員が、議会で "陸戦" を展開するんじゃなかろうか。

と、具体例を挙げ始めるとキリがないけれども、とにかく軍の編成や配備だけでなく装備調達もまた、政治と無縁ではいられないということ。そして、日本がどこかの国に何かを輸出するとか、トルコの件みたいに共同開発を (持ちかける | 持ちかけられる) とかいう話になれば、必然的に相手国の政治に巻き込まれる。

また、たとえばオフセットを実現するために相手国内の企業と手を組む話になれば、どこのメーカーと組むかで、それぞれのメーカーと関係の深い政治家が首を突っ込んでくる可能性もある。

そういう話になったときに、相手国の国内事情、なかんずく政治情勢について、よく知らずに突撃すれば、政治的にも経済的にも火傷を負う事態になりかねない。


ではどうするか。まず、引き合いが来る、あるいは売り込みをかけるとなった段階で、相手国の国内事情、政治情勢、過去の装備調達における動向や実績、その際の交渉の経緯など、集められる限りの情報を集めて分析する必要があるはず。

その上で、リスクとメリットとデメリットを洗い出して、「それでもこの商談は勝負をかける価値がある」と判断したら、デメリットやリスクをできるだけ抑えつつ、かつ商談をものにするための戦略を描き出す。それぐらいのことをやらないと、ことに輸出商談の獲得なんて覚束ないんじゃないかと思う。

あと、政界だけじゃなくて軍の調達担当者や主要幹部についても、バックグラウンドや人間関係などに関する情報を集めておく方が良いかも知れない。これも、案外と装備調達計画の推進に際して関わってくる可能性があるファクターだから。

インテリジェンスは、なにも自国を対象とする武力行使を抑止したり、それに対処したりするため「だけ」に存在するものではない。武器輸出、あるいは武器共同開発も軍事・経済・政治のすべてが関わる安全保障マターなのだから、そこでもインテリジェンスの力は必要。

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