Opinion : UH-X の話とプライオリティの話 (2014/5/5)
 

先日、日経が「陸自の UH-X として既存の民間用ヘリを使い、所要のミッション機材を搭載する方針」という趣旨の記事を載せた。5t 級ということだから、AW169、EC145、EC155、Bell 412 といったあたりの機体になるだろうか。

少なくとも、機数を揃えて可動率を確保するには妥当な解決策だと思う。すでに数が出ている民間用の機体がベースなら、ドンガラは量産効果でリーズナブルな価格にしやすいだろうし、整備体制やスペアパーツ補給の面でも不安は少ない。

なんて書くと、「国内産業基盤の維持がフンダララ」といって吹き上がる人が出てくるのは、おそらくお約束。そこで反問してみたいのは、「その、維持すべきだとする国内産業基盤とは、どの分野のどういう内容なのか ?」ということ。


もう 20 年かそこら前の話になると思うけれども、MSKK 時代に上司から「プライオリティをつけろ」ということをいわれた記憶がある。

今もそうだけれど、片付けないといけない仕事がらみのタスクはたいてい、複数のものがコンカレントに走っている。でも、自分の身体も脳味噌もひとつしかないのだから、本当の意味で同時にこなせるタスクはひとつだけ。

そのタスクをひとつずつ一気に、あるいは細切れにして順番に片付けていくことで、結果的に複数のタスクがコンカレントに走っているように見える「擬似マルチタスク」状態になる。なんのこたーない、コンピュータの処理と同じである。

そこで問題になるのが「プライオリティ」。複数の媒体とお仕事をさせていただいているので、当然ながら複数の原稿をとっかえひっかえしながら書いているのだけれど、もちろん締切が近い原稿はプライオリティが高い。また、締切が近くなくても、進捗が良くないものもプライオリティが高い。その他、いろいろな判断基準があるけれども、挙げ始めるとキリがないのでこれぐらいにして。

場合によっては、いったん決めたプライオリティを御破算にして、タスクの処理順を組み替えないといけないこともある。締切が近い A 誌の原稿を書いていたら、さらに早く出る B 誌の校正が回ってきた、なんていうのは典型例。だから、プライオリティの組み替えは日常茶飯事。

ともあれ、その場その場で最優先となるタスクが何なのかを判断して、積み上がったタスクの山を「ちぎっては投げ、ちぎっては投げ」という調子で仕事をしている。こういうとき、「なんか MSKK で鍛えられたよなあ」という感じることがある。と、それはそれとして。

個人的な仕事の話をしたけれども、プライオリティが高いものが何なのかを判断しなければならないのは、どんな分野でも同じこと。冒頭で挙げた UH-X の話についていえば、運用側と産業側で、それぞれ願望があり、時には対立要因になり得る。その中でプライオリティをつけていかなければならない。

運用側は「安価でタフで信頼性が高くて扱いやすくて、もちろん任務を達成するために必要な機能を備えている機体」を望むだろう。一方、産業側は「国内メーカーに仕事が落ちる機体で、そこで何か新技術を開発したり身につけたりできれば嬉しいし、もちろん利益はちゃんと出てくれないと」と考えそうだ。

さらに軍用機だと「政治的配慮」なんて奴まで関わってくるから話がややこしい。A 国の機体よりも B 国の機体の方が政治的に都合がいい、とかなんとか。

そうやって、利害関係者・各位の要求・要望を並べていくと、時には矛盾が生じることもある。というより、矛盾が何も生じない方がおかしい。そして、既存の機体で済ませようとすれば、寸法が足りないとかなんとか、部分的に要求に合わない部分が出てくるかも知れない。

そういうときに、何を優先して何を後回しにするか (または切り捨てるか) というところで、例のプライオリティの話が出てくる。そしてトレードオフという話になるのは必然。

さらに「UH-X は国産化すべき論」についていえば、ドンガラを作ることを優先するのか、ミッション機材を作ることを優先するのか、はたまたミッション機材のインテグレーションに関するノウハウを得ることを優先するのか、という選択も迫られるだろう。さらにドンガラについては、機体の部分とエンジンに分けられる。

もちろん、オールジャパンで一から十まで国産化できれば万々歳かも知れないけれども、果たしてそれが実現できるのか、実現できたとしてリーズナブルなコストとスケジュールで達成できるのか、(いわゆるひとつの公共事業依存型ではなく) 自立した産業として今後もやっていけるのか、という話になる。

そして、それらの課題に実現不可能、あるいは実現困難なものがあるのなら、何を優先して何を切り捨てるのかという選択を迫られる。それが「プライオリティをつけろ」ということなのでは。すべてを得ようとしても、すべてを失う結果になるのがオチじゃないだろうか。


この、防衛産業がらみのプライオリティに関する話、今月売りの某誌で記事をひとつ書いた。もしもよろしければ、そちらも御覧いただけると嬉しい。

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