Opinion : 昨今の南シナ海情勢に関する徒然 (2014/5/19)
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厄介なことに、「尖閣諸島付近の (領海 | 接続水域) に中国の公船が出現」とか「中国艦隊が日本近海のどこそこに出現」とかいうニュースが、すっかり日常的なものになってしまった。
とかいっていたら、今度は南シナ海でフィリピンやベトナムが中国と角突き合っている。じゃなくて、以前から角突き合ってはいるものの、そのテンションのレベルが上がっている。今のところ、中国はフィリピンに対してこそ "口撃" と輸送妨害程度に留めて (?) いるものの、ベトナムに対しては多数の公船、さらに軍艦や飛行機まで繰り出して威圧しているとの報道も。
なんていう話が出てくると、「ベトナムやフィリピンと連携して対中包囲網を」とか「ベトナムやフィリピンに何か支援したら」とか「これで日本に対する圧力が少し減るのでは」とかいうことを考えてくる人が出てきそう。
なんでも手当たり次第に対中包囲網にする、あるいは対中包囲網に結びつけようとする人はいるものだけれど、そもそもベトナムやフィリピンが中国と本格的に角突き合ったら、日本にとってはネガティブな影響だってあるのでは。
たとえば、南シナ海でテンションが上がって船舶の通航が危険だという話になれば、保険料が上がるかも知れない。あるいは、南シナ海を通航していた船舶が大回りの代替航路を通る羽目になり、時間が余計にかかり、運航費用が上がるかも知れない。
もっとも、中国が力ずくで南シナ海の全域を制圧してしまえば、それはそれで「俺の領海だから勝手に通るな」なんていい出しそうで、問題ではある (本来なら無害通航権というものがあるけれど、ADIZ の一件からいって「俺様ルール」を振りかざす懸念は払拭できない)。
第一、「ベトナムやフィリピンを支援しよう !」といってみても、もしも本当に支援要請が来て対応行動をとることになったら、それが日本の内政あるいは外交に対して、どういうインパクトをもたらすだろう。
どういう選択肢が考えられて、それぞれの選択肢についてどういう利害得失やインパクトがあるのか。そこまで考えた上で「ベトナムやフィリピンを支援しよう !」といっているのかどうかが問題。「他所で花火を上げてくれれば、日本の負担が減りそう」というだけの話なら、ちょっとなあ。というのが個人的な考え。
何かすればインパクトがあるから、何もするな、というわけではない。インパクトがあることを承知の上で、どう対処するかを考えなければならないし、何もインパクトがなくていいとこ取りができる、なんておめでたいことは考えないでね、という話である。為念。
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すると一方では、「日本は平和国家として、率先して仲裁に入り、南シナ海周辺諸国の平和と安定に寄与するべき」と主張する人が出てくるかも知れない。
でも、日本は日本で中国との間に領有権問題を抱えているわけで、いわば一方の当事者でもある。そういう国が「仲裁者でござい」といってしゃしゃり出ていって、果たして受け入れられるかどうか。
仲裁者が仲裁者足りうるには、「仲裁者はいずれの側にも利害を有しない、中立的な立場である」と双方の当事者が認めて、仲裁者として受け入れなければならない。仲裁者がステークホルダーになっていたのでは、そもそも中立的な仲裁者として受け入れられない。
それはそれとして。石油掘削にしろ環礁の埋め立て工事にしろなんにしろ、やられている側の立場だけでなく、やっている側、つまり中国の視点から眺めてみる必要もあるのでは。
「中国の視点から眺める = 中国を擁護する」ではない。「どういう背景事情、どういう思惑があって、このタイミングでこういう挙に出ているのか」を考えてみたら、という意味。
つまり、以前と比べると近隣諸国に対してアグレッシブかつ性急な態度を強めている理由。それに対して近隣諸国が反発したときに、そこでいきなり「リバランシングのせいだ」とアメリカに八つ当たり (?) している理由。etc, etc。
政府高官や軍幹部などの発言にしても同様で、単に発言内容にだけ着目するのではなくて、どうしてそういう発言が出てきたのかを考えてみる。
なんだか、自著 で書いたことの焼き直しみたいになってしまったけれども、そこまで考えてみてもバチは当たらないし、それができないと、適切な対応策を考えることもできないと思う。
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