Opinion : 豪州向け潜水艦輸出に関する徒然 (2014/11/3)
 

実は別のネタにしようかと思っていたけれど、ふと思うところがあって、例の「オーストラリア向けの潜水艦輸出」についてやることにした。もっとも、どちらにも共通する因子はあるのだけれど。

で、この件についてネット上でのやりとりがチラチラと目につくのだけれど、「なんだか、調子の良すぎる人」が目につくなあ、と感じた次第。自分が見たり聞いたりした範囲内だけのことかも知れないけれど。


どうしてそう思うかといえば、「売る側の立場」でしかモノを見ていないから。でもって、競合するドイツ製の潜水艦なんかを貶すだけでなく、そこで事実誤認が混ざっているように思えるケースまであるのだから、なにをかいわんや。

独潜が水素を使う燃料電池を使っているのは事実だけれど、世界のどこに、燃料電池用の液体水素をそのままタンクに入れて潜水艦に積み込む馬鹿がおるか ?
ちなみにその昔、米海軍の原潜が液体酸素を積み込んでいた時期があったけれど、火災事故に見舞われたこともあり、とうの昔に止めている。

以前にも別件で似たようなことを書いた記憶があるけれど、自国で何かを輸入するときには「技術情報は開示しろ」「産業基盤保護のためにライセンス生産させろ」などと主張するのに、いざ日本が海外にモノを売ろうという立場になると「技術情報の漏洩が心配だ」「日本で建造する方がいい」では矛盾もいいところ。

「売る側の立場でしかモノを見ていない」というのは、そういうこと。買う側には買う側の立場や論理や国内事情があるわけで、そちらも少しは斟酌したらどうなんだろう、と。それができなければ、売れるはずのモノも売れない。結局のところ、「世界に冠たる日本の優れた工業製品をオールジャパン体制で売りたい」という願望ばかりが先行しているんじゃないの、と思える。

それでも、ネット上で「愛国的ネチズン」があれこれ吹聴しているレベルなら、他所の国にも似たような人はいるわけで、「ああ、日本も似たようなもんだね」で済む。それをメーカーなどの当事者がいいだしたら、おしまいだと思うけれど。

もちろん、せっかく日本製品に関心を示している国があるのだから、モノになってくれればその方がいい。どんな商売でもそうだけれど、新たに参入しようとするニューカマーにとっては、最初の一歩が大変なのだし。

ただ、その「最初の一歩」につながる扉を強引にこじ開けようとしたり、「うちの製品は優秀だから」「オールジャパンで行くのが当然」と思い上がって「上から目線」で商売したりすれば、当然ながら話が壊れる。最初の一歩でそういうドジを踏めば、後々まで禍根を残す結果になる。

なのに「売る側の立場」からだけ物事を見ると、上の方で書いたような都合のいい論理展開がまかり通ってしまう。しかも、ライバルを貶して自己満足する、ある種の自慰行為に汲々としている (ように見える) ようでは「なんだかなあ」と思ってしまう。日本のネチズンがあれこれ論じたからといって、それが商談に影響するわけではないにしても。

これは、過去に何の付き合いもない会社が、自分とこに何か新製品の売り込みに来たときに、自分がどう感じてどう対応するか、ということを考えてみれば、容易に理解できるはずの話。さらに、売り込みに来た誰かさんがライバル製品の悪口ばかり連呼していたらどう思うよ… って、以前にも、同じことをさんざん書いてるけれど。


はっきりいってしまえば、ドイツやスウェーデンの潜水艦のネガティブ話を探しているヒマがあったら、オーストラリアの国内事情であるとか、どういうオファーをすれば受け入れられやすいかとか、そういうことを調べるために時間を使った方がいいんじゃないかと。

なにもオーストラリアの一件に限らず、他の国に何かを輸出するとか、他国と共同で何かをしようとかいう場合でも同じ。こちら側の利益・理屈だけではなくて、相手側の利益・理屈も考慮に入れた上で、両者ができるだけ満足できる落としどころを考える。交渉ごとの基本でしょ ?

武器輸出に限らず、商売ってたいていそうだろうけれど、一方の当事者が総取りしようとしてもうまくいかない。双方にとって利益になるように折り合いを付けて妥協点を見つけ出して、それで初めて Win-Win の関係ができるのでは。

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