Opinion : 東大の軍事研究受け入れ報道に関する徒然 (2015/1/19)
 

「東京大学大学院の、情報理工学系研究科において軍事研究を解禁していたことが分かった」… といっても「成果を公開できないものは対象外」という但し書き付きなのだそうだ。

このニュースが出てから、キーワード「軍事研究」でツイート検索すると、雑誌「軍事研究」に関するツイートがすっかりどこかに押し出されてしまっているので、個人的にはまことにメーワクな話である。

その報道が出た後で、当の東大は「賛成なのか反対なのかよく分からない、どっちともとれる内容の声明」をリリースした。これで旗幟を鮮明にしたとはいえないから、肯定的に捉える側も否定的に捉える側も、なんだかスッキリしない思いをしているに違いない。

常日頃から書いているように、COTS (Commercial Off-The-Shelf) 化が盛大に進んでいる昨今では、そもそも「軍事」と「非軍事」を明確に区別できるのか、という問題がある。ただ、その話を本論にすると同じことの繰り返しになってしまうので、それについては措いておくことにして。


賛同する自由も反対する自由もあるのだから、東大関係者が「軍事分野の研究はやりません」というなら、その決定は尊重するべきだと思う。今回の件についていえば、当事者よりもむしろ、このニュースを受けての賛成・反対の反応が問題ではないかと考えた。

たとえば、「東大が軍事研究を認める → 日本が戦争をする国になる」という主張がある。しかしである。

東大が軍事分野の研究に手を貸すようになったとして、それによってどれぐらいのリソースが増えるのか。軍事分野の研究に関わるリソースの中で、東大のリソースが加わった際にどの程度の比率を占めることになるのか、それを定量的に示さなければ、東大が軍事研究を認めることの業界的インパクトを推し量ることはできない。

そこで「定量的インパクトがあまり大きくない」ということになれば、「東大が軍事研究を認めただけで日本が戦争をする国に変わるほどの影響力を発揮できるのかね ?」という疑問が、当然のことながら出てくる。

これは、軍事研究を認めることに賛成する側についてもいえること。どの程度のインパクトがあるのかという話を抜きにしたのでは、賛同するにしても説得力は薄い。

定量的インパクトということを煎じ詰めれば、東大だけでなく、すべての大学について調べてみて、「日本の大学のうち、軍事分野の研究を認めているところはどれくらいあるのか」というところから話を始める必要がある。

すでに多くの大学が軍事分野の研究を認めているのであれば、そこに東大が加わることのインパクトは相対的に薄れる。逆に、どこの大学も軍事分野の研究を認めていない中で東大が先陣を切ったということになれば、「大学という研究リソース」におけるインパクトは大きいし、他の大学にもたらす心理的インパクトも大きくなる。


とどのつまり、日本の大学の中でもトップクラスと位置付けられる「東京大学」の看板があるからこそ、今回の一件が賛成する側にとっても反対する側にとっても、ひとつのシンボリックな事象として捉えられているのではないか。

ちょっと嫌味ったらしく書くと、これが東大ではなく、もっと知名度の低い大学のことだったら、ニュースで大きく取り上げられたり、賛成や反対の声が渦巻いたりしたのだろうか ? ということ。

さらに嫌味を書けば、東大というメジャーな大学が軍事分野の研究参画に反対していた、ということが「軍事に関わる物事はすべて忌避するべき」という主張にとって、手っ取り早い援用手段になっていた一面は否定できまい。

以前にも書いたことがあるけれど、ネット上ではしばしば、自分の言葉・自分の考えで語る代わりに、有名人・著名人の行動や発言を引き合いに出して「○○がこういっているんだから、自分の主張は正しい」という話の展開をする人がいる。それと同じロジックなんじゃないの、ということ。

でも、具体的な影響の多寡、定量的な影響の度合を無視して論じるのでは、反対するにしても賛成するにしても、なんだか上っ面をなでただけの空虚な議論に終始してしまうのではないかなあ ?

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