Opinion : 官邸ドローン騒動に関する徒然 (2015/4/27)
 

ここのところ、なんだか「ドローン」がブームになっている。

ただ、軍事畑の人間からすると「ドローン」では「無人標的機」になってしまうので、当節の流行物件とは意味が違ってしまう。といって、UAV でも意味が広がりすぎるので、ここではマルチコプターと書くことにする。

そういえば昨年、W7 系の第 1 編成を川重兵庫工場から搬出する現場、それと金沢港に陸揚げする現場を取材しに行ったときに、誰かがカメラ付きのマルチコプターを飛ばしていた。マルチコプターを使っている現場を生で見たのは、これが初めてだったと思う。

もちろん、どちらのときにも現場からは少し離れた場所を飛ばしていて、特に川重兵庫工場のときには海の上だった。だから「墜ちても安心」である。金沢港では陸の上を飛んでいたけれど。


といったところで、首相官邸の屋上でマルチコプターが見つかったとかいう話である。さらに放射性物質が出たとか何とかいう話が出てきた (後に「福島の土」と伝えられた) ものだから、「化学兵器の散布にも悪用可能」「規制が追いついていない」といった具合に、マルチコプターがいきなり悪役扱い。

つい少し前までは「ネット通販の宅配に使う」とか「空撮に使う」とかいう具合に、バラ色の話ばかりが取り上げられ、まるで「バスに乗り遅れるな」という調子だった。それが、この変わりよう。

何でもそうだけれど、目新しい新製品や新技術が出てくると、まずアーリーアダプターが現れて、さながら新興宗教の教典みたいに持ち上げる。しばらく経つと新聞やテレビが後を追う。ところが、それまでさんざん持ち上げたり煽ったりしていたものが、何かひとつ事件が起きると正反対の方向に振れるのだから、どっちにしても乗せられやすいもんだと思う。

ただ、いつもいっているように、どんなテクノロジーだろうが製品だろうが、アイデア次第で善用もできるし悪用もできる。マルチコプターだって例外ではない。それに、UAV と爆薬や化学兵器を組み合わせればテロなどに悪用される可能性がある、なんて類の話も、以前からミリタリーの業界では出ていた。目の前で事件が起きた途端に大騒ぎされても、今更感が拭えない。

そもそも、有毒物質を散布するなら、わざわざ当節流行りのマルチコプターを使わなくても、農薬散布用の無人ヘリでも同じことはできる。たまたまこの手の機体が話題になっていたものだから、一種の融合反応を起こして騒がれたのではないかと思ってしまう。

相手が「飛びもの」だけに、テロなどに悪用するかどうかという話を抜きにしても、いずれ、安全性の問題が出てくる事態は不可避だったはず。首相官邸の屋上ではなくて、たとえば「学校の運動会の会場で墜落事故を起こして観客席に突っ込み、負傷者が出る」なんてことが起きていたかも知れない。

仮定の話を持ち出すと「何でもあり」になってしまうので、これぐらいにしておくけれど。


ともあれ、なにがしかの危険はついて回るのだから、事件が起きても起きなくても、いずれ規制は必要になったのではないか。たまたまセンセーショナルな形でトリガーが発生しただけで。

ただ、「航法システムに手を入れて、飛べない場所をプログラムする」にしても、「購入時に身元確認」にしても、さらに一歩踏み込んで「販売・購入を許可制・登録制にする」にしても、本気で悪用しようと考える輩が出れば、あの手この手で突破を図るのは必然。

だから、多少の抑止効果につながったとしても、「完全阻止」には至らないと思われる。それでも、何もしないよりはマシだし、「好き勝手なことをさせない」という意志を示す必要はある。

なんにしても、今回の事件がきっかけになって、実用性も現実性も定かでないのに話題性ばかりが先行する「ドローン ブーム」に冷や水を浴びせる結果になれば、それは不幸中の幸いというものかもしれない。

その上で、「やっていいこと」と「やってはいけないこと」を明確にして、地に足の付いた UAV 活用につながればいいのだけれど、そこで世論 (というより報道) がヒステリックな方向に振れると、誰も幸せになれない結果に終わる。それが不安ではある。

だいたい、ドローンで宅配するとかいうけれど、不在で宅配ボックスに入れて欲しいと思ったときはどうするの ?
あと、ネブラスカあたりの田舎なら、障害物の心配をあまりしないで飛ばせるだろうけど、日本の都市部では話が違う。現に「官邸ドローン」の一件でも、通信がロストしたとかいう話が伝えられているぐらいだし、「測位・航法・通信」という無人ヴィークルの三大課題を露見させたともいえるのだ。

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