Opinion : ネパール震災の救援空輸に関する徒然 (2015/5/18)
 

ネパールで震災が発生して、各国から支援の手が差し伸べられている。山奥の標高の高い場所だから、フネでは物理的にアクセスできない。道路網だってそんなに充実していない。ということは、救援用の物資・機材・人では空路で運び込むしかなくなる。

また、国内の道路網を初めとするインフラもどちらかといえば貧弱な部類に属するだろうから、被災現場へのアクセスも空路に頼らざるを得ない。となるとヘリコプターは必須ということになる。

それで、あちこちの国からさまざまな固定翼輸送機やヘリコプターが送り込まれているわけだが、自分がネット上で見聞した範囲内でいうと、「ちょっと待て」といいたくなるような話も散見される。


たとえば、「間に合わなかった飛行機」といって日本の XC-2 が槍玉に挙げられている。するとそれに対して、「A400M だって飛んでないじゃないか」と反論する人が出る。すると、もう被災地の話はそっちのけでワヤワヤである。

XC-2 の開発がもっと順調に進んでいれば、ひょっとすると今回の震災救援に間に合ったかも知れない。でも、ブツが完成して量産機がラインから流れ出せば、直ちに世界のどこにでも飛んでいけるというものでもない。

比較のために叩きネタに使われている A400M が、ちょうどそんなステータスである。飛行時間の多くが試験飛行に使われている、つまり戦力化に向けて運用評価試験をせっせとやっている段階だから、御近所の北アフリカぐらいならともかく、ネパールくんだりまで遠出できるかといえば難しい。

面白いもので、XC-2 を擁護する人はたいてい、(おそらくは機体規模が近いという理由で勝手にライバル扱いして) A400M を叩く。でも、似てるのは機体規模ぐらいで、そもそもの CONOPS が違うんじゃないか ?

事前に予測や予定が立つ案件であれば「間に合わなかった」といって叩くのはアリだが、自然災害や戦争は「いつ、どこで、どの程度の規模が起きるか」なんて予測も予定も立てられない。それでは、間に合うとか間に合わないとかいう話を強調しても、後付けにしかならない。本筋の理由が別にあって、ついでの援用に使うのならまだしも。

おっと、陰謀論大好きな人が好みそうなネタ「地震兵器」が実在すれば、事前に予定を立てて地震を起こせるかも知れないが、そんな「やれるもんならやってみろ」的なネタに真面目に付き合うほど、自分は物好きではない。

突発的に発生した事態に対処するには、多少の向き・不向きにはお構いなしに、手持ちのリソースを突っ込むしかない。それが C-17A だったり CH-47 だったり UH-1Y だったり MV-22B だったりしたという話。不向きがあって搭載量が少なくなってしまったとしても、ないよりはマシ。ゼロではない。

あと、機体が装備一覧に載っていても、それが使える場所にいるか、使える機体がどれぐらいあるか、という問題もある。高地向きでダウンウォッシュが少なくて搭載量が多くて足が速くて航続距離が長い (なんか矛盾しそうな要素が並んでいるな) 機体が仮にあったとしても、直ちにパッと派遣できる場所に、かつ、直ちにパッと派遣できる体制で揃っているかどうか。

と考えると、「とにかく使える機体があったら送り込め」となるのが自然な流れ。現地の状況を調べて意見を聞いてから、使える機種は何かを検討して… なんてやっていたら、その間にも犠牲者が増える。巧遅より拙速が重んじられることもある。

それが現地に行ってみたら「ダウンウォッシュで民家を吹っ飛ばす事態が懸念される」といって運用を拒否されたとしても、それはまた別の問題。なにも RAF が、はなから民家を吹っ飛ばすつもりで CH-47 を持って行ったわけでもあるまいし。


とかいう話もさることながら、個人的にもっともイラついたのは「自分の嫌いな誰かさんを叩きたいばかりに、その誰かさんが推している機体を叩く」というトバッチリ。それで粗探しされて叩かれる機体はいい迷惑だ。それも災害派遣任務を肴にされたのでは、なおのこと。

どうしても叩きたい人がいるなら、そんな間接的アプローチを使わなくたっていいと思うよ ?

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |