Opinion : 承認欲求との付き合い方 (2015/5/25)
 

「善光寺ドローン」の一件が、妙な成り行きになってきた。なんでも、ネット中継に熱中している (といえばいいんだろうか) 15 歳の少年の仕業だというのだが、それだけでなく、その少年に対して一種の「投げ銭」が行われていたのだという。

いくら安いといっても、動画撮影用のマルチコプター、15 歳の子供がホイホイと買えるものではない。なのにどうして何回も騒ぎを起こせるのかと思ったら、そういう仕組みだったわけだ。

この問題について「キャリア教育のあり方に問題がある」と指摘する意見があり、それはそれで納得できる部分もある。

といっても、自分が学校に通っていたときには「日本のキャリア教育の根幹は、現在のところ、『夢を持とう、夢に向かって頑張ろう』」なんていう教えられ方をされた記憶がない。今は違うのかも知れないが、学校に通うような歳の子供がいないから、しかとはわからない。

なので、キャリア教育のあり方云々という話が正しいのかどうかについては言及しないけれども、それとは別に、「承認欲求をこじらせちゃったんじゃないのかなあ」とも思った。


昔だったら、子供の承認欲求といっても、自分の周囲の限られた世界の中だけの話だった。子供の世界というのは、自分の家族と学校の中ぐらいがメインで、そこから遠く離れたところに一気に広がるようなことは、そうそうなかっただろうから (皆無とはいわない)。

でも、当節だとネット上で見知らぬ誰かに承認される、という形が日常的にあり得る。その結果、「どこか別の場所にいる、見知らぬ誰かが自分のことを認めて、投げ銭をしてくれる」なんていう、それこそ自分が子供の頃には考えもつかなかった事態が起きている。

でも、リアルで顔を合わせている相手に騙されることすらあるというのに、回線の向こう側にいる見知らぬ誰かが、善意だけで承認とか投げ銭とかいう話まで進んでくれるものなのか。と疑問を持ってみてもおかしくなかったのでは。

なんていうのは、それなりに歳を食った人間だからいえる話で、未成年の頃だと、ホイホイと釣られてしまっても不思議はなかったかも。認められて、おカネまで出してもらえれば、もう舞い上がって有頂天になってしまっても不思議はない。

そういうところが若年故の未熟な部分でもあるし、本来なら周囲の人間がブレーキをかけないといけないところ。でも、ブレーキをかけようとしても、本人が聞く耳を持たなければ、ブレーキにならない。

ミート スペースでも「認められたい、有名になりたい、チヤホヤされたい」といった類の欲求は渦巻いているけれど、その点、サイバースペースの方が桁違いに「鉄火場」だと思う。ところが、サイバースペースに馴染んでいる若年層の方がむしろ、そこが鉄火場だという意識を欠いているように思える。

そのくせ攻撃性だけは強くて、他人を叩いたりこき下ろしたり、「自分の方が知ってるぞ、詳しいぞ」とクダを巻いたりする人は大勢いる。でも、それがきっかけで土俵に上がる (仕事のきっかけを掴むとか、物書きデビューするとか TV デビューするとか) きっかけを掴んだ人って、どれだけいるだろう。

承認欲求というのは誰でも持っているものだし、そのこと自体は自然なこと。ただ、それとの付き合い方次第では、大袈裟じゃなくて身の破滅にすらつながりかねないもの。特に、乗せられて調子に乗って浮かれてしまったときには要注意。

そういえば、名無しで叩きや罵倒ばかり繰り返していい気分に (?) なっている向きもあって、それもある種の歪んだ承認欲求なのかも。それはそれで、おそらく永遠に満たされることも満足することもなくて、闇に落ち込むだけだと思うけれど。


ついでに説教くさいことを書くと。(騙しではなく) 本当に実力や能力が買われて土俵に上がることができたとしても、本当に大変なのはその後。「一発屋」で終わらないためにはどうすればいいか。何が必要なのか。そこまで親切に教えてはもらえないだろうし、それは自分でなんとかしないといけない。

たとえば動画配信による実況ひとつとっても、最初は刺激的な場面の実況をやるだけで注目されるかも知れない。でも、刺激というのは (いつも書いているように) そのうち飽きられる。そこでさらに強い刺激を、強い刺激を、と求め続けると、道を踏み外す元になる。

じゃあ、そのときはどうすればいいの ? 打った手が外れたらどうすればいいの ? 何か新たな境地を開拓しなくていいの ? ということまで考えて布石を打てるぐらいでないと、継続的に商売のネタにすることはできない。

承認欲求を満たすのも大変だけど、それが満たされた後はもっと大変。仕事にしようと思ったら、経営者としてのマインド セットも必要なのだ。

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