Opinion : 放火の危険は新幹線だけか ? (2015/7/6)
 

「きっと今週はこの話題でくるに違いない」と予想された方は少なくなかったと思うけれど、その予測を裏切らず (?)、「新幹線放火事件」の話を。

といっても、「安全神話の崩壊とはどういう言い草だ」とか「いくら自分の生活が苦しいと思っていても、他人の生命・財産まで巻き込む事件を起こすな」とかいう話は、もう当たり前すぎるぐらい当たり前なので、パス。


過去の国内外の教訓を取り入れているおかげで、日本の鉄道車両の難燃性は高い水準にある。そのことは図らずも、今回の「N700 放火事件」でも立証できたのではないか。500 系 V 編成では、火災対策として荷棚の交換までやっている。

燃える話もさることながら、むしろ火災によって発生する煙の方が問題であったかも知れない。実際、煙にまかれて亡くなった方がいらっしゃるし、過去の火災事例でも似たような話はある。

だから「排煙装置を設けるべき」という話が出てくるのは分かるけれども、口でいうほど簡単な話ではない。先に blog のコメント欄で書いた話だけれど、基本的に煙は上の方に来る一方、新幹線電車の排気口は床面に、還気ダクトは床下にある。そして、天井裏には排気ダクトを追加できるような余裕はない。

となると、あの車両のあの場所に付いているあの仕掛けみたいなことをやって、非常時に車内の空気を排出する排気扇を天井裏に仕込むぐらいが、現実的な落としどころかも知れない。

比較的現実的なところとしては、火元の車両から乗客を避難させた上で、延焼しないように貫通路を閉鎖する。これなら現実的に見て、なんとかなるのではないかと思える。窓から外に出るのはサイズのことを考えると難しいし、材質がポリカーボネートだと、ハンマーでぶち破るのも難しいので、隣のハコに移動する方が現実的。

ちなみに、スプリンクラーは消火用の水を積み込む余地がないのでダメだと思う (トイレ・洗面所の水タンクだって、全部のハコに付いているわけではない)。それなら消火器を何本か余計に積み込む方がいい。


たまたま東海道新幹線が現場になったせいもあってか、飛行機でやっているような手荷物検査の必要性という話が出ている様子。そりゃまあ、やろうと思えばできるだろう。ただし、検査待ちの行列で駅の構内がトンでもないことになるのを覚悟すれば。

5 月の大型連休のときに、東京駅の東海道新幹線南乗り換え改札口で「自由席を御利用のお客様で大変混雑しております。指定券をお持ちの方は中央乗り換え改札にお回りください」と呼びかけていた。手荷物検査がなくてもこの調子なのだから、そこで手荷物検査なんぞやった日には、えらいことになる。

そもそも、人が集まっているところで放火事件なんぞ起こされたら大変なことになるのは、なにも新幹線に限らない。ラッシュ時の通勤電車の車内でやられたら、もっと大変なことになる。車内でなくても、たとえばターミナル駅のコンコースだって同様に危ない。

結局のところ、利便性と安全性のトレードオフ、どこでバランスをとるかという話になる。飛行機はハイジャック事件がたくさん起きているから安全側にバランスを振っているし、利用者もそれで納得している。では、鉄道も同じ考え方で受け入れられるか。

ぶっちゃけ、今は「新幹線の安全性がー」といっている人達が、もしも手荷物検査導入で大行列なんてことになれば… 今度は「手荷物検査のせいで行列ができて不便になった」と不平を垂れるのは、まず間違いないと思われる。

何か、人目を引きつけるような事件や事故が起きると、その事件や事故の現場、あるいは状況に引きずられて対策を考えてしまいがち。前回に経験した戦争に (備えようとする | 反対しようとする) のと、なんとなく似ている。

でも、特定の事案に限定されない、もっと普遍的な問題を抱えていることもある。今回の場合、人が集まっている場所でいきなり放火されるというリスクがそれにあたる。その普遍性を見逃して「新幹線の火災対策」だけ気にしていたら、今度は在来線で何か起きた、なんてことになるやも知れず、それではシャレにならない。

また、事故や災害というのは意地悪婆さんみたいなもので、想定外のところ、あるいは盲点になっていたところを突いてくることが多い。つまり、過去の事例に備えていると別のところを襲われるという話。

だから、特定の場所や事象に囚われすぎないで、より普遍的な課題や教訓を洗い出すことを考える必要があるかも。実際、新幹線以外の交通機関で放火事件が起きた事例もあるわけだし。

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