Opinion : テクノロジーと社会の摩擦 (2015/8/10)
 

先に Twitter でも言及したけれど、10 月に「ドローン・オブ・ウォー」という映画が公開される。あまり詳しいことを書くと、ネタバレになってしまうので書かないけれど、米空軍の UAV オペレーターを取り巻く現実を、うまい具合にまとめていると思う。

で。改めて思ったのは、「これって "テクノロジーと社会の摩擦" だよなぁ」ということ。


自律制御技術や測位技術などの要素技術が出揃い、さらに衛星通信を組み合わせることで、アメリカ本土から地球の裏側を飛ぶ UAV を管制できるようになった。これならオペレーターを海外に派遣しなくて済むし、機体が無人だから人命の損耗にもつながらないし、万々歳。

…と思ったら、(たぶん) 予想もしていなかった問題がいろいろ噴出している。メンタルヘルスの問題もそうだし、オペレーターの処遇改善に腐心している目下の状況もそれ。その辺の話は、以前に「軍事研究」でも書いた。特にこの問題、パイロットが「一級市民」として君臨している空軍において深刻になるのは、無理もないところ。

武装 UAV がらみの問題というと、他国における主権の侵害行為や付随的被害という大問題もある。ただしこれは「予想もしていなかったような問題」とは違う。意図的に他国の上空で武装 UAV を飛ばしてテロリスト狩りをやっているのだから、予想されてしかるべきだし、予想できていなかったのなら問題である。

それはともかく。「技術の進歩によって、従来は不可能だった製品やサービスが実現」→「社会や法制度が付いていけなくて摩擦を起こす」という類の話は、なにも武装 UAV に限らず、さまざまな分野で起きている。

これを書いているインターネットそのもの、あるいはそこで提供されている各種サービスでも、いろいろ "摩擦" は起きている。

たいてい、その "摩擦" が問題化すると、熱心なユーザー (特にアーリーアダプター) が批判的意見に対して反論したがるものだけれど、「製品/サービスに問題はない」とか「規制に反対」とかいう話ばかり声高に叫ぶと、却って "摩擦" が酷くなりはしないか。

そういえば、何かとお騒がせのマルチコプターにしても、国が「ドローン規制」の動きを見せているのに対して「ドローン規制に反対」「ドローン産業振興の足を引っ張る」と反対している人がいる。

でも、制度の隙間を突くような形で好き勝手に運用する状態が続けば、もっと酷いリアクションに見舞われる可能性は否定できない。「なにがしかの規制は必要」「では、どういう規制にするのが最善なのか」という方向に持っていかないと。

なんてことを思ったのは、アメリカで、山火事を受けて出動した消防ヘリの行動が「野次馬ドローン」に邪魔された、というニュースが出てきたせいでもある。

何でもそうだけれど、新しい技術・製品・サービスが出てきて、それが定着するまでの間には、"摩擦" や "規制" や "妥協" がつきもの。そういう一種の通過儀礼を経て、多くの人が納得できる落としどころを見つけていかないと、定着するはずのものも定着しなくなる。

そうなると、それこそ本当に「足を引っ張る」事態になる。「足を引っ張るな」と反対する人が、そういう事態まで考慮に入れているかどうか知らないけれど。


新しいテクノロジーや製品やサービスのアーリーアダプターというのは、いってみれば一種の新興宗教みたいなもの。

というと御本人は怒り出すかも知れないけれど、無条件の信仰に近い言動、あるいは反対意見に対する反発の強さが目に付くのは事実じゃなかろうか。(ちなみに、これがテクノロジーや製品やサービスだけでなく、組織や個人を対象とした一種の信仰になることもある。もう過ぎた話だから、誰のこととはいわないけれど)

なんでそんなことになるのかと思ったけれど、ひょっとすると「自分達がいち早く見つけた "聖地" が、分からず屋どもに侵害される」という被害者意識をかき立てられるんだろうか。

その推測が正しいのだとしても。被害者意識、あるいは弾圧される少数派意識といったものは、往々にして判断を狂わせる原因でもある。ことに後者は、ある種の麻薬的要素がありそうで始末が悪いけれど。そういう意識にはまりこまないで、いかにして最善の妥協点を引き出すか、という姿勢が必要になるんじゃなかろうか。

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