Opinion : 命名と気遣い (2015/8/31)
 

前回の DDH-183 のとき以上に、「新しい DDH の進水が近付くと艦名をめぐってネット上で百家争鳴、喧々囂々、侃々諤々」がお約束になってきた感がある。で、DDH-184 は「かが」と来た。

個人的には、装甲巡洋艦つながりで「いわて」推しだったけれど、海幕には海幕なりの考えがあるわけで、そこで出た結論に対してギャアギャアいうほどのものでもない。願望は願望、結論は結論。

自分が推していた艦名にならなかったからといって、艦の武運が尽きるという話ではないし。思い通りの結論が出なかったからといって、カッカしてどうする。


といったところで考えさせられたのが、「命名に際して、どこにどう配慮するべきものなのか」という話。「いずも」のときに中国が艦名を引き合いに出して難癖をつけてきたけれど、今回の「かが」にしても、難癖をつけたくなればつけるだろう。

そういうときに、ネタは何でもいいのだ。艦名に限定しなくても、なにかしら因縁をつける理由をほじくり出してくるだろうから、気を使うだけ無駄。

そういえば、米海軍の揚陸艦は「海兵隊が活躍した場所」の名前をつけるもんだから、他国の地名がゾロゾロ出てくる。日本も巻き込まれていて、過去に USS Iwo Jima (LPH-2) と USS Okinawa (LPH-3) があった。でも、これらの艦名に噛みついた日本人がいたという話は聞かない。内心で不愉快に思っている人ぐらいなら、たぶんいるだろうけれど。

同級には USS Inchon (LPH-12) もあったけれど、これは朝鮮戦争の大逆転につながった場所の名前だから、韓国政府が噛みつくことはなさそう (北朝鮮がどう思っているかは知らんが)。ちなみにこのクラス、アメリカ本土ないしは米領の地名がついているのは、7 隻中 2 隻だけである。

ちなみに、外国の地名ということなら、先日に引退した豪海軍の HMAS Tobruk もある。探せば他にもいろいろ出てきそうだ。

そういえば、英海軍の 23 型フリゲートで HMS Iron Duke (F234) がいるけれど、これに対してドイツ (特に海軍) が噛みついたという話も聞かない。そもそも英海軍にしてみれば、Duke 級として「頭文字 D」(AE86 ではない) で揃える考え方の延長線上で大名跡を再登板させたのだろうし、特段の悪意はなかろう。

軍艦の命名とは普通、そういうものである。と考えると、「いずも」の艦名に物言いをつけた中国の行為が「強烈に」浮き上がって見える。たぶん、艦名で物言いがつけられなければ「空母保有に向けた野望の現れ」とかなんとか言い出すだけのことで、行き着くところは似たようなもの。

とどのつまり、(武器の命名に限った話ではないけれど)「気遣い・気配りするに越したことはないけれど、相手がそれを汲み取ってくれるかどうかは別の問題」という、至極当たり前のところに落ち着くのではなかろうか。


そういえば、ドイツでは Eurofighter Typhoon という名前を使っていない。でも、これは、ドイツが「その名前 (Typhoon) はヤダ」といって別の名前を使っているという話で、他のパートナー国がドイツに気を使ったのとは違う。

むしろ、パートナー国以外への売り込みも含めて、一般的には Typhoon という名称を使っているわけだから、特にドイツに配慮しているわけでもないという方が実情に近そう。でも、だからといってドイツが英伊西の 3 ヶ国に「強烈に反発」しているわけでもない。

さらにもうひとつ。米海軍の LHA-5 は Khe Sanh あるいは Da Nang にしようとしたら物言いがついて、USS Peleliu になった。ドイツにおける Typhoon と似たデンである。他国はともかく、自国内向けの気遣い・気配りは必要という一例。

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