Opinion : 武雄市図書館のこと (2015/9/14)
 

学生の頃、空き時間あるいは休講が発生したときには、たいてい図書館に入り浸っていた。たまたま、自分が通っていた大学の図書館にはジェーン年鑑がドサッと揃っていたので、それがあれば時間はつぶせる。どころか、時間が足りないぐらい。

あと、鉄道・航空・艦艇関連の雑誌もひとわたり揃っていたので、閉架になっていたものまで 2 年分ぐらいずつ、束で出してもらって読んでいた。正直いって、これが今の自分につながっているのは間違いない。いいかえれば、今の自分の仕事の基礎を作ったのは大学の図書館だった、といっても過言ではないぐらい。


といったところで、カルチュア・コンビニエンス・クラブ (株) (以下 CCC) が指定管理者になってからというもの、あれこれいわれ続けている武雄市図書館の話である。

その CCC が先日に 発表 した内容を見て、「なんか勘違いしていないか」という感想を抱いた。以下、その発表分からの引用。

ご指摘の蔵書は、2013 年 4 月のリニューアル開館前に武雄市から業務委託を受け、初期蔵書の強化として追加納入した蔵書になります。追加納入蔵書数 10,132 冊 (当時、CCC が出資するネットオフ等より商品リストを事前に確認の上で購入。※現在は資本関係はございません)、納入金額 760 万円 (装備費、物流費含む )で追加納入した蔵書について、より精度の高い選書を行うべき点があった事を反省しております。

 追加納入蔵書について調査した結果、リニューアル開館から 2015 年 9 月 9 日までの約 2 年半で一度も借りられていない蔵書が 1,630 冊ある事が判明致しました。つきましては、弊社にてこれらの蔵書と同等の冊数を新たに選書し寄贈することと致します。(1,630 冊寄贈予定) これらの対応を、市当局と相談の上、可及的速やかに実施します。

いや、だから、そういう問題じゃない。

コンビニの棚に並べる商品だったら、「並べてみたけど売れていない死に体商品なので、売るのを止めます」でもいい。限られたスペースを有効活用しないと、コンビニという業態は成り立たないのだし。

では、図書館の蔵書はどうか。「いわずもがな」の話ではあるけれど、借り手が多いから要る、借り手がいないから要らん、という単純な話じゃない。

冒頭で書いたジェーン年鑑の話なんか典型例。自分が通っていたのは、かなり規模のでかい大学だったけど、それでもジェーン年鑑を必要とする人が年に何人いたかといえば、相当に怪しい。

しかし、一冊につき万単位のおカネをかけてジェーン年鑑を入れているのは、「それが大学の図書館として備えるべき基礎資料だから」という識見があったからではないかと推察する。

これは、美術館や博物館や動物園だって同じこと。「この動物は観に来る人が少ない不人気動物なので、飼育するのを止めます」なんていって通るのか。美術館が「この作品の前で足を止める人は少ないので、展示を止めます」なんて態度で通るのか。それと同じことなんじゃないかなと。

とどのつまり、「図書館の蔵書選定や運営に求められるマインド セットは、モノを売るために求められるマインド セットと違う」「出番が希でも、それを必要としている人がいれば備える、図書館としての使命だから備える」という認識が、当事者に欠けていたのではないか、という話になる。

実は物書き業にも、「商売になるかどうかは分からないけれど、これはきちんと調べて書いておくべき」という種類の話があるように思える。ただ、完全に商売抜きというわけにも行かないので、それをどう両立させるかが知恵の絞りどころ。


この件、民間企業に運営を委託したことと、その委託した結果の話がゴッチャになって批判されているようにも見える。

筋論からいえば、委託した先がちゃんとした識見とフィロソフィを持って、借り出しの多寡なんていう筋違いの尺度で蔵書の価値を判断するようなスットコドッコイでなければ、別に民間委託したっていい。

ただ、そういう民間企業がどれだけあるかというと、そこは不安がある。だからこそ、委託元が「図書館は公営無料貸本屋と違うのだから、こういうところは損得抜きでちゃんとやってもらいたい」とコミットメントを求めないと。根っこの問題は、実はそこかも知れない。

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