Opinion : "親日" にすがるようではダメ (2015/10/5)
 

インドネシアの高速鉄道計画で、日本案が蹴られて中国案の採用が決まったというニュースがあった。
で、「親日国だから、過去の支援実績があるからといって甘く見ていた」なんていう政府関係者の発言が伝えられている。正直いって「アホちゃうか」と思った。

鉄道に限らず、武器輸出なんかでも「日本製品は優秀だから売れると思う」なんてことを大真面目に口にする人がいる。それに対して「モノが良ければ売れる、なんていうのは思い上がり」だとは、以前からあちこちでいってきたこと。


武器輸出はともかく、新幹線というシステムがよくできているのは確か。現場取材を通じて、少なくともその片鱗ぐらいは見聞きしている。

ただし、高速・高密度の安定輸送を実現している背景には、さまざまな技術やノウハウがある。車両に限った話ではなくて、土木・軌道・信号・通信・運行管理などといった分野も含めて。

そういう、形のないノウハウや人材育成といった部分まで、輸出先でちゃんと再現できるのか、というところが気になる。だが、それをいいだすと収拾がつかなくなるし、本題から外れるので、今回はこれ以上触れないことにして。

話を元に戻す。いつも書いているように、「モノが優秀」なのは必要条件であって、十分条件じゃない。「日本の新幹線システムが優秀だから」といって、それをそのまま相手国に持ち込めば OK、なんて話には (たぶん) ならない。

そもそも、日本で行われているような高速・高密度・大量輸送を必要としている国がどれだけあるか。それほどの水準を求めていない相手に対して「4 分間隔の高密度運転」をアピールしても響かない。

ひょっとすると、国によっては「国威発揚のためのシンボルとして、世界最高水準の最高速度で走る列車が欲しい。運行本数は午前と午後に一往復ずつもあれば充分だから」なんてことがある。かもしれないではないか ?

日本が特に強い部分としては環境対策や地震対策が挙げられるけれど、それだって、相手国が環境問題や地震といった課題を深刻に受け止めていなければ響かない。台湾高鉄で逆転劇が起きたのも、地震という一種の神風が吹いたから、なわけで。

だから、手持ちのシステムをそのまま売ろうとするだけでは、きっと無理が出てくる。高速・高密度・大量・安定輸送で培ったノウハウ、それを構成するビルディング ブロックを、相手国の要求に合わせてどういう形で提供していくか、どうカスタマイズしていくか、というところが輸出に際してのキモなのでは ?

そしてもちろん、投資をして事業として運営するものなのだから、事業モデルやファイナンスという話も避けては通れない。武器輸出に際して借款をワンセットにする事例がチョイチョイあるけれども、それと同じ。

ちょうど最近のネタだと、ブラジルが JAS39E を調達する際に、スウェーデンから比較的低い金利の借款を取り付けている。この手の「融資などの資金調達もワンセットにした売り込み攻勢」は、中国やロシアの武器輸出において、かなり得意としているところの手口であったりする。

相手が何を求めているのかを研究するのは言わずもがな、さらにライバルの手口まで研究して、それに対してどう対応あるいは対抗するかを考えるのが、売り込みというものだろうに。まして中国が相手なら、好条件も甘言も盛大に繰り出してくるのは目に見えている。


我々の日常生活でも、「個人的な付き合い」より「安い」等の理由を優先して購入場所を決めることは、ままある。「近所の電気屋のおじさんとは顔見知りだけど、やっぱりあっちの方が安いから…」といってヤ○ダ電機に行っちゃった、なんて話はありがちじゃなかろうか。

もっとトレンディな例だと、「その業務を請けるのに必要な識見や良識を欠いているのが明白」な会社でも、条件の折り合いが付けば業務を請けてしまっている事例がある。どこぞの図書館のことだとはいわないけど。

だから、「親日」とか「モノが優秀」とかいうところに頼るだけではダメだろうと。正直いって、冒頭で取り上げたような泣き言をいってるようでは、話にならないのではないか。

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