Opinion : 空母、この人心を惑わす言葉 (2015/11/2)
 

海自の DDH が話題になる度に繰り返される、毎度恒例の無限ループ「空母だ、空母じゃない」論争。

個人的には、いつも書いているように、あれは「従来の DDH の延長線上にある、ヘリ運用能力や多目的性を強化した "護衛される艦"」と定義している。

ところが、「帝国海軍の再来」を希求するのか、それとも威信財としての存在を希求するのか、「空母」と呼びたがる向きがいる。かと思えば、「空母は軍拡の象徴」という考えに立脚するのかなんなのか、「空母」とみなすことで批判につなげようとする向きもある。これらは「空母と呼ぼうぜ」派。

一方では、これは自分も含めて「あれは空母と呼べる存在ではない」と主張する一派もいる。その動機や理由はいろいろだろうけれど、動機の話は措いておくとして。


以前からしつこく書いているように、あのサイズで F-35B を積んだとしても、せいぜい 1 個飛行隊規模が限度。そのすべてを常時全力稼動させられるわけではないから、継続的に任務飛行に投入できる機数はいいとこ三分の一。それで有用な洋上航空戦力というには心細い。

STOVL が可能な戦闘機を積めば、航空艤装の簡易化は可能になるが、機体のサイズが小さくなるわけではない。だからフネのサイズが同じなら積める機数も同じで、機数を増やそうとすればフネを大きくするしかない。

英海軍の CVF があんなデカブツになったのも、「固定翼機を搭載して洋上航空戦力を展開する艦として、あれぐらいの規模はないと機数が足りない」という認識があったのだろうと推察される。その前のスルーデッキ巡洋艦改め軽空母では、フネの規模は今の海自の DDH より小さいぐらいだったわけだし。

その「ある程度の規模が要る」という話と、戦力化や訓練に必要なインフラ・カネ・時間・人手のことを考えれば、DDH を V/STOL 空母 (という種類の空母もあるわけだ) に仕立てようとしても能力的に限りがあるし、他にもっと優先すべき課題はあるんじゃないか。ということは以前から繰り返してきている通り。

無論、ヘリを運用できるフラット トップだから「ヘリ空母」とはいえる。だが、世間一般に「空母」という 2 文字 (4 バイト) で連想されるのは米海軍のスーパー キャリアみたいなフネ、つまり CTOL 空母であって、ヘリ空母じゃない。冒頭で「空母とは呼べない」と書いたのは、そういう理由。

政治的見解としては「日本は攻撃型空母を持たない」ということになっている。ただ、この「攻撃型空母」という言葉がまた曲者。米海軍の艦種分類を引っ張り出せば、今の CVN は対潜哨戒機を積んだときから CVAN ではなくなっているのだから「米海軍のは汎用空母 (CV) であって、攻撃型空母 (CVA) は存在しない」となってしまう。

そこで屁理屈をこねると「だったら米海軍並みのスーパー キャリアを日本が持っていても問題はない」ということになりかねない。もうなにがなんだか。


これが巡洋艦や駆逐艦やフリゲートなら、「当節の駆逐艦は昔の巡洋艦よりでかい」とかいう程度の話で済んでいる。これこそ、もうみんな一緒くたにして「護衛艦」にしちゃえばスッキリするのだが、それはともかく。

根本的な問題は、「空母」という言葉が人によってさまざまな解釈をされたり、さまざまな願望や期待や反感を投影されたりしていることにある。だから「空母」という言葉をめぐる水掛け論が延々と続く。

一方が「(ヘリ) 空母」だといえば、それを受け取った側が「(CTOL) 空母」「(攻撃型) 空母」とみなして噛みつく。これでは話が噛み合うはずがない。といって、いちいち頭に種別を示す言葉を付けろといえば、また喧嘩になる。

軍艦の種類はいろいろあるが、これほど人心を惑わす言葉も珍しい。それだけ、「(CTOL) 空母 = 大国の象徴・軍事力の象徴・威信の象徴」という刷り込みが行き渡っているということなのだろうけれど。

ただ、威信財として持つのであれば、スーパー キャリアとまではいわなくても、少なくともイギリスの CVF ぐらいの代物でないと通らないのではあるまいか。

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