Opinion : 軍艦の名付けを発端にしてあれこれ (2015/11/30)
 

今日 (29 日)、Twitter で「アメリカの軍艦の名前は、戦争で勝った土地の名前が出てきてフンダラカンダラ」という記事が話題になっていた。(あくまで自分の身辺の話)

確かにそういう事例はあるし、旗色が悪かった戦争に関わる土地の名前がボツになって、別の名前に置き換えられた事例もある。そりゃまあ、「負け戦に終わった土地の名前がついた揚陸艦に乗って出動したい」と思う海兵隊員はいないだろう。

そもそも揚陸艦というのは、海兵隊員を目的地まで運んで上陸させるための軍艦。だから "Marine Corps dedicated" なネーミングになるのは自然なこと。潜水母艦に潜水艦ゆかりの人物の名前をつけるのと同じである。


ちなみに件の記事の著者は、四半世紀ほど前にも、米海軍のイージス巡洋艦や揚陸艦の名前を引っ張り出した挙句に「戦争で勝った場所の地名を艦名にするいやらしい習慣は云々」と書いていた。同じネタを蒸し返して原稿を書いたわけだ。

でも、個人的見解を述べるならば。「魚では予算は取れない」といって、潜水艦に議員の名前や議員の地元の地名をつける方が、よほどいやらしい。もっとも、それは彼の国の予算作りの仕組みや政治状況を反映したもので、「艦名の付け方にもお国柄が」の一例であるわけだけれど。

そういえば、同じ「元大統領」でも、みんなが空母の名前になるわけではなくて、潜水艦だったり駆逐艦だったりすることもある。人によっては「この人はどう見ても、空母の名前にしてもらえそうにないな」という人もいる。

もっとも、軍人でも巡洋艦だったり駆逐艦だったりフリゲートだったりするわけだから、それと似ているかも ? やはり、内輪で高く評価されている大物は扱いがいい。さらに扱いがいいと「二代目」まで登場する。

そんなこんなで命名をすると。ときどき、お国柄を反映させたり、過去の大名跡を襲名したりして決まった軍艦の名前に対して、「戦場の名前なんかつけやがって」とか「我が国を侵略した軍艦の名前を襲名するとは」などとイチャモンをつける人が出る。

イチャモンは避けるよりつける方が簡単だから、あるイチャモンを避けようとして何か手を打っても、きっと別のところからイチャモンをつけてくるのがオチじゃなかろうか。明けても暮れてもネット上で誰かの「叩き」に精を出してばかりいる人が見受けられるけれど、それと似ている。

もっとも、国際共同プログラムでパートナー国の機嫌を損ねないようにする、という配慮ぐらいは必要だろう。ただし、その結果として国ごとに名前がバラバラになるのは、物書き業としてはありがたくない。Concorde みたいに、うまい落としどころがあるとは限らないにしても。


そういえば米海軍の艦名のうち、独立戦争の古戦場は分かる。でも、国を二分してべらぼうな血を流した南北戦争の古戦場も出てくる。状況によってはおおいに紛糾しそうな素材だから、それが紛糾しないで受け入れられているということは、それなりに落ち着いて向き合える状況になっているということなのかなあ、なんていうことを考えた。

そういえばかつて、SSBN の艦名に南軍の将軍の名前が使われたこともある。かつての SSBN では、「アメリカ史上の著名人」というくくりから考えられそうな枠からはみ出した艦名が、幾つもあったのは否めない。だが、それが面白い。どうせ米海軍の艦名について蘊蓄を書くなら、こちらをネタにした方が面白かったのではないか。

日本だとどうなるだろう。戦国時代ならまだしも、戊辰戦争や西南戦争の古戦場名なんて持ち出した日には、かなりモメそうな気がするのだけど。いや、戦国時代だって、モノによってはタダでは済まないかも知れない。やはり、今の命名ルールが無難なようだ。

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