Opinion : いわゆるドローンをめぐる摩擦と規制 (2015/12/14)
 

「ドローンの世紀」が出て 2 ヶ月近く経った。いちいち気にしてエゴサーチしているわけではないけれど、たぶん、賛否両論・毀誉褒貶といったところになりそうだなぁ、とは思っている。

商売のことだけ考えれば、「ドローンであんなこともこんなこともできる、ドローンの利用を制限しようなんていうのは産業育成を邪魔する国賊だ、ドローンを否定するやつはバカだ、今こそこのビッグウェーブに乗り遅れるな」という本を書いた方が良かったのかもしれない。

でも、そんな心にもないことは書きたくないし、書かない。そう思って「袖を引っ張るような」内容の本を書いたことに対して、面白く思わない人がいても不思議はなさそう。


その本の中で触れた話とも関連するけれど。

新しい技術・製品・サービスが登場したときには、往々にして社会との間で摩擦が起きる。インターネットでも携帯電話でも UAV でも何でも、「そういうもの」が存在しない、あるいはポピュラーではないことを前提にして制度や意識が成り立っていれば、必然的に、そうなる。なぜか。

それは、新しい技術・製品・サービスとの付き合い方が定まっていないから。メリットばかり喧伝してデメリットを後回しにすると、そのデメリットの部分が牙を剥いて、事件や事故の原因を作る。それで騒ぎになったり叩かれたりして、対策を講じていくうちに落としどころが見つかってくる。あとはもちろん、それを使う側の慣れという要素もある。

子供とインターネットや携帯電話 (スマートフォン含む) の付き合い方なんていうのは、社会との間で摩擦が起きた典型例じゃないかと思う。それは本題ではないから、「そういう話もある」と取り上げるにとどめるけれど。

ましてや、通常以上に高い安全性が求められる「飛びもの」なら、なおのこと摩擦が起きやすい。これまでの制度や意識の隙間を突くような飛びモノが出現すれば、そこで何の影響も生じないなんてことはない。プラスのものであれ、マイナスのものであれ。

ところで。飛行機の事故率が自動車と比べてずっと低いのは、統計的に証明されている。ところが、扱いの大きさになるとひっくり返る。

自動車事故は、よほどのことがなければ、あるいは何かインパクトのある事由によるとか、他にニュースがないとかいうことでもなければ、いちいちニュースにならない。でも、飛行機の事故はインシデント レベルのものでも、いちいちニュースになることが多い。

中には、特定の機体を叩きたくて、些細なことでもほじくり出してニュースにする事例もあるが、それはまた別の次元の話。とはいえ、それも「飛びモノだからこそのインパクト」に依拠している部分がありそう。相手が車両やフネだったら、同じ調子で叩けたかどうか。

たぶん、飛行機だと (統計における実績以上に) 事故を怖れる人が少なくないのは、「物体が空を飛んでいること自体への違和感」とか「飛んでいるモノが墜ちてきたら惨事になる」とかいった意識によるのではないかと思われる。

それならそれで、そういう状況にあることを踏まえた上で安全確保を優先しないと。でないと、それこそ「ドローンの時代」は頓挫して、軍用などのニッチ市場にとどまるのではないか。無責任に調子に乗って煽らないと話が進まないような代物なら止めた方がいい。


UAV、というか世間一般に「ドローン」というと連想されるマルチコプターについては、やっと最近、メーカーが技能講習をやるようになったとか、法改正によって利用規制が明文化されるとかいう動きが出てきた。

技能講習は強制ではないようだし、マルチコプターを飛ばすのに免許が要るというわけでもないから、まだ不完全かも知れない。でも、まずは可能なところから手をつけないと。「素人が飛ばしていいのは屋内限り、屋外で飛ばしていいのはしかるべき技能講習と認定を受けた人だけ」というのは、ひとつの落としどころであるかも知れない。

幸運にも大事故には至っていないけれど、たとえば新幹線が走っているところにマルチコプターが迷い込んできて衝突事故、なんてことになったら目も当てられない。なんぼなんでも、「マルチコプターにレーザーポインタを取り付けて、飛行中の米軍機に対するレーザー照射を企てる」なんて人が現れるほどには、世の中、狂っていないだろうけれど。

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