Opinion : 旅情が云々の話から考えた、鉄道趣味のこと (2016/1/11)
 

なにも最近に始まったことではないけれど、「ロングシートだから旅情がない」「新幹線には旅情がない」とかなんとか、もう聞き飽きた。ロングシート云々は JR 発足後の話かも知れないけれど、きっと昔も似たようなものだったのではないだろうか。

たとえば「50 系は旧型客車と違って旅情がない」とか「40 系気動車は機能本位で暖かみがない」とかなんとか。いかにもありそう。最近は昔ほどいわれないけれど、東海道・山陽新幹線しかなかった頃は「速さ一辺倒で、しかも 0 系のオンパレードでつまらん」とかなんとかいわれていたようであるし。

とどのつまり、いつの時代にも年長者が「いまどきの若い者は」といっているのと同じである。

別カテゴリの話だけど、軍用機の世界でも「昔の米海軍機は、ハイビジの色つきで楽しかった」「いまどきの、ロービジでゴーストグレイ一色の機体はつまらん」なんて繰り言は、いかにもありそう。
軍艦なら昔も今も灰色一色だけど、こちらは形でいろいろいわれそうである。USS Zulwalt なんか見るとねぇ。


でも、いつまでも同じことを壊れたレコードみたいに (古) 繰り返していても進歩がないし、「昔はよかった」と言い続けたからといって、時計の針が逆回りするわけでもない。どこかで割り切って変化を受け入れて、新しい時代の楽しみ方を見つけるか、さもなくば脇に寄って退くか。

そういえば、特に鉄道趣味業界は細かいディテールにやたらとこだわるもので、形態分類なんていうのはその最たるもの。たとえば、「みんな同じ」に見える N700 系 2000 番代×80 編成 (X59 も含む) でも、細かく見ていくと仕様の相違はいくつかある。

誰にでもお勧めできる話とはいえないけれど、「みんな同じに見えるけれど、実は違う」というポイントを見つけ出したときの面白さ (自己満足ともいう) は、なかなか代わりが見つからない。珍しいもの (いわゆるネタ) は誰でも見れば分かるから、そういう意味での面白みには乏しい。

編成ごとの形態分類だけでなく、現車や図面をしげしげと眺めていたら初めて特徴的な部分に気付いた、なんていうのも楽しみのひとつ。自分も、そういうネタをいくつかストックしているけれど、同じところに気付いた人がどれぐらい存在するのかは知らない。

後は、メカニズム・システム・保守用車・各種工事の観察なんていうのも面白いポイント。東海道・山陽新幹線で使っている道床交換作業車 (NBS) が典型例で、メカ好きの自分にとっては面白くて面白くて、もう。でも、誰もがそれを面白がるかというと、たぶん、それはない。

つまり、ディープな層に向けた「新たな興味ポイント」と、ライトな層に向けた「新たな興味ポイント」は違うわけで、後者には何があるだろうか、というのが目下の思案のしどころ。ときには「こんなところにも目を向けてみたら ?」と提案してみることも必要だろうと思うから (もちろん、それに乗ってこないのはダメな人、なんてことはない)。


冒頭で書いた「旅情」の話についていえば、要は「非日常的感覚」を味わえるかどうかという話なんじゃなかろうか。都市部でロングシートの通勤電車にばかり乗っていれば、ボックスシートで駅弁をつつくのは「非日常」だから、そこでロングシート車が出てくれば「キーッ」となるのは分からないでもない。

でも、それを絶対不変・不可侵の正義みたいにいいたてるのは違うんじゃないの、とはいいたい。それに、昔と変わらないものでなければ「非日常的感覚」を味わえないものなのか、と問い直してみたってバチは当たるまい。

地方線区で 701 系に代表されるようなロングシート車が導入されたのには、相応の事情があるわけで。そこでは、たまに訪れる人の「非日常的感覚」よりも、毎日、利用あるいは運用する側の「日常的事情」の方が優先される。

第一、「旅情がある」からといって古い車両や施設を使い続けていれば、サービス レベルが落ちたり、故障が増えたり、メンテナンスが大変になったりする。そういうリスクをおしてまで維持しなければならない「旅情」ってなんなんだろう ?

そういえば、似たような使われ方をする言葉で「(現代的な) ○○には (暖かみがない | 人間味がない)」というのがある。これだって同じことじゃなかろうか。
どうせその手のことをいうなら、「AT や CVT の加減速には暖かみがない、MT 車の加減速には人間味がある」ぐらいのことを吹かしてみてはどうか (おい)

おことわり : 来週の更新は火曜日になります

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