Opinion : 騒音規制考 (2016/1/25)
 

どんなヴィークルでも、程度の差はあれ、騒音は発生する。動力源を初めとするさまざまなメカニズムが作動しているのだから「無音」というわけにはいかないし、速度が上がれば空力音の問題も出てくるし。

それでも、騒音が問題化したことで結果的に、騒音を減らすための努力も進んだ。成田や羽田で民航機を見ていても、駅などで新幹線を見ていても、それは実感できる。昔の 0 系 16 連「ひかり」が通過するときの高架下の騒々しさなんていったら、それはもう…

もっとも飛行機についていえば、軍用機は話が別。実際に見聞きした範囲だと、たとえば J52 系列のエンジンや F404/414 系列のエンジンを使った機体は騒々しいことこの上ない。自分は飛行場の近くで暮らした期間がそれなりに長いので、普通よりは耳が慣らされていると思うけれど、それでも騒々しいと思う。

逆に、いるのかいないのか分からなかったのが、在りし日の S-3。と、軍用機だからといってこれを持ち出すのは反則だけど。


ただ、騒音という話になると難しいのが、時系列の問題と音質の問題じゃないかと思う。

時系列の問題とは、「持続的か、間欠的か」という話。飛行機や鉄道は後者で、都市部の道路は前者。騒音規制をピーク値で設定するか、平均値で設定するかの違いが、この問題に関わってくる。

飛行機でも列車でも、音がするのはそれが近所を通っているときだけだから、よほど頻繁に現れるのでなければ、平均値はピーク値よりだいぶ低くなる。もっとも、平均値が低くなればピーク値がどんなに高くてもいいよね、とはいかないわけで、自ずから許容される限度はある。

その点、都市部の幹線道路や高速道路は常にクルマが通っているから、ピーク値も平均値も似たり寄ったりになる。それだけ分が悪いともいえる。

では音質の問題とは何かというと、高音が主体なのか、低音が主体なのか、キーキーと金属音を発するのか、とかいった話。たとえば、P-3 は絶対的な音量はそれほど大きくなさそうだけど、重々しい音がするので、意外と腹に響く。道路騒音も、乗用車が主体なのとトラックが主体なのとでだいぶ違う。

東十条あたりでは新幹線より在来線の方が騒々しいと思うけれど、高架を走っていて防音壁に囲まれている新幹線と、地平を走っていて防音壁がない在来線という違いに加えて、音の質的な違いもあるように思える。ちなみに、キーキーと音がする例としては、停車直前の某新幹線電車がある。

さらに心理的要因も絡んできそう。たとえば、A380 は「大型だからうるさそう」と思うと、実際には突出してうるさい訳ではないので拍子抜けする。逆に、「小型なら静かじゃないか」と思うと実はうるさい、なんてこともあり得る。

これは「大きいとうるさい」「小さいと静か」という根拠なき先入観がもたらすものなので、エンジニアリングでどうにかしろといわれても困ってしまう。測定器で測定したときの数字と体感のギャップという問題も、似たところがありそう。


とかなんとか長々と書いてきたのは、「北陸新幹線の時間短縮に壁…速度制限や減速区間」(讀賣) という記事があったから。

同じ 200 系が走り続けているのであれば、速度を条件にするのは理に適っているけれども、車両はすでに代替わりしているし、新しい車両は最高速度の引き上げに対応して騒音対策を強化している。

特にパンタまわりなどの空力騒音は速度の 6 乗に比例するのだから、240km/h のつもりで造った車両と 320km/h のつもりで造った車両では、騒音対策のレベルは隔絶している。だから後者が 240km/h で走れば、騒音はだいぶ小さくなる (はず)。

機械系の騒音や転動音、あるいは振動などにしても、1 両の重さが三割ぐらい軽くなれば、その分だけ軽減できていて不思議はないし、実際、そうなっている。

そうなると、高速化に対応して騒音対策を強化した分だけ速度の引き上げを許容してもいいのでは、という考え方はあり得る。ただしもちろん、速度を引き上げなければ騒音レベルが下がるのだからその方がいい、という考えもある。

何をいいたいのかというと、騒音規制で最終的に抑え込まなければならないのは、実際に発生する騒音であり、規制は手段ではなく結果でなされるのが筋だろう、という話。もちろん、スピードアップのために環境基準を緩めるのは NG だけれど。

そのことと、先に書いた「ピーク値 vs 平均値」の話とか、音質の違いとか。そういったファクターまで考慮に入れて、社会的便益と生活環境の維持を両立させる落としどころを探れないものだろうかと。そんなことを考えた次第。

一度決めたものを金科玉条・不可触の聖典のように扱うのが正しいのか… って、なんか別の分野でも聞いたような話ではある。

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