Opinion : ATD-X のお披露目を受けての徒然 (2016/2/1)
 

自分が Lockheed Martin のメディア ブリーフィングに行っていたのと同じ日に、ATD-X の報道公開があった。

いつも書いているように、ステルスでも何でも、実際にブツを作って試してみることは重要。だから「ATD-X なんぞ要らない」とは思わない。いまどきの、あるいは将来の戦闘機に求められる要素技術を実際に作って、試してみることは必要。共同開発における足場作りにも役立つし。

また、カウンター ステルス技術を開発する際にも、そういうノウハウや実験機は意味がある。たとえば、バイスタティック探知やマルチスタティック探知の試験をやるのであれば、コンピュータ シミュレーションだけでなく、現物で試してみる方がいい。それによって計算と実際の差異が分かれば、シミュレーションの精度を上げることができる。

ATD-X が「次世代戦闘機のプロトタイプ」という勘違いはありがちな話だけれど、すでにそれについて指摘している人は何人もいるだろうから、わざわざここで繰り返すことはなさそう。


ただ、注意しないといけないのは、技術はあくまで技術であって、何かを実現するための手段なんだよ、という話。技術だけあれば戦争に勝てる訳じゃない。

話の順番からすれば、まず「将来航空戦の様態がどうなるか」「それに対してどう対応するべきか」という想定が最初にあるべきで、それができて初めて、「それを実現するために必要な技術は何か」という話に進む。

だから、なにかしら技術開発を始める際にも、そういう手順を踏むのが本筋。「他所の国がやってるから」(これは全面的に否定するのは難しいが) とか「やってみたいから」というだけの理由で技術開発を始めるのは筋違い。ATD-X がそうだというのではなくて、一般論として。

そういえば、防衛省がぶち上げている「クラウド シューティング」。技術的テーマとしては面白いけれど、開発は大変そうだし、それ以上に試験・評価と戦術開発が大変なことになりそう。それはそれとして、「この技術をどう活用して航空戦に勝利するつもりなのか」ということも考えてみないと。

たとえば、バイスタティック探知と組み合わせたらどうかと考えた。バイスタティック探知では発信側と受信側が別の場所にいて、相手がレーダー警報受信機 (RWR : Radar Warning Receiver) で存在を嗅ぎつけられるのは発信側だけ。そこで、、受信側で探知・位置標定・識別を行った上でミサイルを撃つ。

撃たれた側からすると明後日の方向からミサイルが飛んでくることになる。もしもミサイルに対して指令送信とかレーダー照射とかいった支援が必要になるのであれば、発信側と受信側が役割を入れ替えたっていい。(ミサイルが飛んできた時点で、そっちに敵機がいるのは分かるのだから、存在を秘匿する意味は薄れるはず)

そういえば、米海軍では最近、"Distributed Lethality" ということをいっている。それに通じる部分がある話、かも知れない。

と、これは単に部外の素人が書いた思いつきだけど。要は「こういう技術があるから勝てる」ではなくて「こういう場面において、こういう技術をこう活用することで勝てる」というマインド セットが必要、という話。

ステルス技術についても、それだけあれば勝てるというものではない。第一、あらゆる周波数帯のレーダーに対して万能というわけではないし、パッシブ探知への対処も考えなければいけない。そもそも、近くまで接近すれば Mk.I アイボールによって見えてしまう (透明飛行機を実現する技術は、まだない)。

今売りの「Jwings」誌のインタビューでも述べた話だけど、ステルス技術とは「自機の被探知を遅らせることで、相対的な先制発見」を実現するもの。それを念頭に置いた戦術開発まで行って、初めて意味がある。


要は「技術は目的じゃなくて手段だから」というところを忘れないでね、という恒例の結論に落ち着くのは、ATD-X でも何でも同じこと。だから、ATD-X の報道公開で「日本スゲー」みたいな記事を書いているのを見ると、個人的にはちょっとイラッとする。

本当に大事なのは、その技術をどう使うかという道筋をつけるための、試験・評価・戦術開発・戦力化の作業なのだから。と思って、以前に「航空ファン」誌で「軍用機の RDT&E」に関する連載企画を持ち込んで、載せていただいたんだけどね…

Contents
HOME
Works
Diary
PC Diary
Defence News
Opinion
Ski
About


| 記事一覧に戻る |