Opinion : SEMPER PARATUS (2016/4/18)
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空港に向かうモノレールの車中、あるいは機内誌・車内誌の類で時折見かける広告が、工業団地を初めとする、各種産業拠点の広告。もちろん、地元の自治体が出稿している。
拠点を整備したり、あれこれと優遇措置を講じたりして産業誘致を図るのは結構なこと。その際にどうしても無視できないファクターである、交通の利便性をアピールするのも当然。
ただ、ひとつひっかかるのは、ときどき「地震の少なさ」をアピールする事例があること。
過去の話については統計データでもって、「過去○○年間に渡って大きな地震が起きていません」ということができる。でも、過去に地震が起きなかったことは、将来に地震が起きないことを保障するものではない。前にもどこかで同じことを書いたかも知れないけれど、しつこく書く。
なにも地震に限ったことではなくて、水害でも土砂崩れでも地滑りでも火山の噴火でも同じだけれど。
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企業の進出に限らず、普通に人が住む場合でも、どこかの地域を指して「○○は地震が少ないから」「△△は地震が多いから」という話は、ときとして話題にのぼる。でも、それもあくまで「過去の実績」に立脚しているのは同じ。それに、記憶に残るか残らないかという問題や、地震の規模の大小というファクターも絡んでくるから、案外と、統計的なものではなく見た目の印象が先行するかも知れない。
ところが実際には、「過去に長いこと大きな地震がなかった場所」で、いきなりドカンと大きな地震が起きることがある。問題はそこ。
「大地震が起きる」といわれ続けて数十年の静岡県、あるいはしばしば (?) 桜島が噴火している鹿児島あたりがいいサンプルになると思うけれど、そういう状況に置かれているからこそ覚悟ができる。だからこそ、ちゃんと資金を投じて対策を講じたり、訓練をやったりする。
今でもよく覚えているけれど、2011 年の東北地方太平洋沖地震からさほど間をおかないうちに、静岡県東部で震度 6 クラスの地震があった。でも、そこに住んでいる身内は平然としていたし、その翌日には東海道新幹線が普通に走っていたというぐらいのもんである。
この地震が大したニュースにならなかったのも当然。大した被害が出なかったのだから。目立つ (画になる) 被害がなければニュース屋さんは寄ってこないし、記事にも番組にもならない。
趣味人の間ではあれこれいわれている JR 東海だけれども、やるべきことはちゃんとやっている。それが、屋台骨の東海道新幹線ならなおのこと。長いこと、コツコツと施設の堅牢性・抗堪性を高める工夫を積み重ねてきているから、それがこういうときに威力を発揮する。車両側では、N700A の地震ブレーキという例がある。
その背景にあるのはもちろん、「東海地震が起きるかも知れない」「それによって屋台骨が揺らいだら大変」という危機感。危機感があるからこそ対策にドライブがかかる。事故や災害というのは「意地悪婆さん」みたいに、対策を講じていないところ、講じていないところを突いてくる。それを受けて新たな対策を上積みする。
災害対策も経験工学みたいなところがある。阪神淡路大震災や新潟中越地震の後に、新幹線 (いや、在来線も) で何が行われたかを見れば分かりやすい。対向式ホームの地下鉄駅で、線路間の柱がどうなったかを見るのもいい。
拙宅では仕事部屋に作り付けの書棚をつくってもらったときに、「それ、やらないとダメですかぁ ?」と渋られても、頑として耐震ラッチ付きの扉をつけてくれと言い張って押し通した (もちろん、その分の対価は支払っている。為念)。
あと、防湿庫を据え付けたときには、建物が揺れる向きを考慮に入れて、被害が出にくいように据え付けた。その他のあれやこれやもあり、震度 3 や 4 ぐらいなら「何も被害は出ない」と平然としているし、実際、被害は出ていない。震度 6 や 7 になったら分からないけど。
では、「○○は地震が少ないから」といわれる土地に住んでいたり、そこで事業を営んだりしていたら ? それで油断してしまったら、対策を講じようとするドライブが働かなかったり、対策が後手に回ったりしないだろうか ? 大きな自然災害が起きると突如として、被災地以外のところでも防災グッズが売れ始めるけれど、しばらくすると、喉元過ぎればなんとやらになる。
だいたい、いざ我が身に災厄が降ってくるまでは他人事、というのはよくある話。自分のケツに火が点くと初めて慌てるものである。でも、本当に必要なのは「常に備える」こと。
「地震が少ない」とか「災害が少ない」とか「戦争が少ない」とか、根拠なき安心感に浸っていると危機管理が弱体化するんじゃないか。なんてことを改めて感じた。自治体が産業誘致に絡めて宣伝に使うのであれば、せめて「地盤が強固です」というアピールぐらいにとどめる方が良くはないだろうか。
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