Opinion : ニュースの目利き (2016/5/23)
 

しばらく前から、何か事件や事故が起きる度に「なぜか都合よく現場に居合わせた NHK 職員」の話が話題になる事案が発生している。といっても、統計を取ってみたわけではないから、どれぐらい高い確率で居合わせたのかは知らない。たまたま居合わせたから話題になった、というのもあるだろうし。

ただ、どこの新聞社もテレビ局も雑誌社も、そう都合よく、事件・事故の現場に内輪の人間がいるとは限らない。だから、何か起きると「それっ」とばかりに人を送り込むことになるのは必然。

ことにテレビは「画」がないことには話にならないから、なんとかして現場の映像を手に入れようとする。これはもう、刷り込まれた習性みたいなものなんだろうと思う。裁判なら「イメージイラスト」で代用できるけれど、ことに事故でその手は使えない。

ところが最近、安直に Twitter で現場の画像をアップしている人を見つけて「提供依頼」するパターンが増えている。この話は昨年の夏にも取り上げたことがあった。ところが、単に「安直だな」では済まされない事態になってきた。


なんでも先日の東上線の脱線事故に際して、ガセネタの写真を流した輩と、それに釣られたテレビ局があったと聞いた。もちろん根本的にはガセネタを流す方が悪いのだが、それに釣られる方にも三分の非はあるんじゃないか。

この場合の「三分の非」は「盗人にも三分の理」のパロディなので、比率に特段の根拠はない。実のところ、もっと「非」の比率は高いと思う。

そもそも、Twitter で探して、うまいこと見つかったらタダで提供してもらおうという根性がよくない。次に、見つけた写真の真贋もちゃんと確認できないのに番組で使っちゃうという、検証の能力や体制を欠いているのがよくない。

ネット時代よりもずっと前から、新聞社やテレビ局に「一般人からのタレコミ」「一般人からの写真提供」という事例はあった。火事が起きた現場の写真が新聞に載ったときに「誰某さん提供」とクレジットがつくのが、多分それ。

ただしその場合、ネタは外部から持ち込まれるものだから、新聞社やテレビ局の側で取捨選択して「これは使わない」とやるのは比較的容易。ガセネタを掴まされても、「なんだ、ガセネタを持ち込みやがって」とぼやけば済む。

でも、最近流行りの「Twitter で画像探し」の場合、見つけて「使わせてもらえませんか」と依頼するわけだから、依頼する側の立場の方が相対的に弱いはず。見つけて使用依頼を出してから「ガセネタと判明したので使うのは止めます」とは、先に頭を下げている手前、なかなかいいづらいと思われる。

ではどうすればいいか。そもそも Twitter でアップされてる写真に頼るというのが良くないのだけれど。でも、どうしても使わざるを得ないというのであれば。それはもう、依頼を出す前・検索した段階で、真贋の判定をできるような体制と人材を用意しないと始まらない。

でも、これが「繁華街での火事」みたいなやつなら、背景の建物や看板なんかで真贋判定する余地があるだろうけれど、東上線の事故みたいに「脱線した台車」なんてことになると、しかるべき知識を持っている人がいないと手も足も出ない。

嫌がらせみたいな話を出すと、軸梁式軸箱支持装置の「新幹線の台車」が出てきたら大変だ。500 系か 700 系 3000 番代か 700 系 7000 番代か N700 系 7000 番代か N700 系 8000 番代か 800 系か、さあどれだ。


実のところ、「映っているものが違う」ならまだマシで、画像編集のツールがいろいろ出回っていて、それを使いこなせる人がゾロゾロいる昨今では、「コラ」「でっち上げ」という可能性も考えないといけない。

そういうのも含めて、ちゃんと目利きができる人がいて真贋判定できる自信があります ! それができる体制も構築します ! という鉄壁の自信がなければ、Twitter で画像探しするのは大火傷の元だから止めた方がいいんじゃなかろうか。

いくら現場の写真を速やかに手に入れたいのだといっても、一度ガセネタにひっかかって信頼を失えば、それを回復するのは大変。そっちの傷の方が、現場の画が手に入らないことの傷より大きいのだから。

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