Opinion : 見せる・見せないのメリハリ (2016/9/26)
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先週、日本向け F-35A 初号機 (AX-1) のロールアウト式典などを取材するために渡米していた。
あれやこれやの事情により、日本から取材に行った人は自分を含めて 2 名しかいなかった模様。大手報道機関はみんなアメリカの支局から人を送り込んでいたし、その数は知れている。だから「日本の取材陣」は意外なほど少なかった。
セレモニー終了後、皆が「ぶら下がり」をやっている横で、そのタスクがない自分はさっそく、機体のディテール写真集めにかかっていた。大手報道機関の多くはテレビ局だから、スチール撮影の人はごく僅か。
時間的な余裕も意外とあったので、余裕を持って撮影できたのが嬉しい。もっとも、そうやってバリバリ写真を撮りまくっている様子を、フジテレビのニュースで短時間ながらしっかり撮られていたけれど (苦笑)
名古屋 FACO (Final Assembly and Check-Out) で組み立てる AX-5 のお披露目もそのうち行われるハズだけれど、こちらはそうはいくまい。日本国内のことだから、取材陣が殺到するだろうし。いわゆる劇パであろう。
ただ、本題はその話ではなくて。
セレモニーの最中、機体が姿を見せた後で、ちょっと遠慮気味に撮影していたら、LM 社のスタッフが「もっと前に来ていいよ〜」といってくれたので、お言葉に甘えてギリギリ最前列のラインまで進出させてもらった。
セレモニー終了後の撮影タイムでも、うるさいことは何もいわれず、「こらこら、そこは撮っちゃイカン」なんてこともなかった。比較的、制約がありそうな尾部まわりも含めて。まぁ、程度問題ではあろうし、強面の警備スタッフがそこここに立っているわけだから、無茶はしないように自重した (つもりだ) けれど。
そんなこんなの報道対応を見ていて改めて実感したのは、「見せていいところと、見せてはいけないところ」「撮らせていいところと、撮らせてはいけないところ」のメリハリがハッキリしているなぁ、ということ。
もちろん、最新鋭のステルス戦闘機なのだから、いろいろと保全上の制約があるのは当然。でも、その中でも見せていいところ・撮っていいところはちゃんと出す、という姿勢がハッキリしている。
これは、昨年に横須賀入港の模様を取材させてもらった USS Benfold (DDG-65) のケースも同様。だから CIC (Combat Information Center) の写真を「Jships」誌に載せることもできた。
事なかれ主義的見地からすれば、とりあえず「あれもダメ、これもダメ」とやっておく方が気楽である。普段の書類などの管理でも同じで、とりあえず手当たり次第に「秘」の判子をペタペタ押すことになりかねないし、その方があれこれ考えなくて済むから楽。
でも、そんな考え方で本当に保全ができるんだろうか。情報保全の目的は、「外部に漏れると困ったことになる情報を、外部に出さないこと」にある。だったら、個々の情報ごとに、「これは外部に出しても差し支えないのか」「この情報が外部に出たら、どういう影響があるのか」を考えないといけない。
でも、「とりあえず疑わしきはマル秘指定」だと、そういう思考が養われないんじゃないだろうか。それで本当に情報保全ができるんだろうか。普段は良くても、いざ公開の可否を自分で判断しなければならなくなったときに、ちゃんと適切な判断ができるんだろうか。
もちろん、組織として「可否の判断基準」みたいなのはあるにしても、その場で咄嗟の判断を求められたら、「情報が外部に出た場合の影響」を自分で評価する眼力が必要になる。それは普段から涵養しておかないと無理な相談。
そういう判断がちゃんとできて、初めて「見せていいところはしっかり見せる」「見せちゃいけないところは徹底的に見せない」が成立する。あと、後者については、質問をやんわりとかわすとか、観に来た人をさりげなくスルーさせるとかいうテクニックも要る。(そこは、鋭い目を持つ観察者とのせめぎ合いになるわけだけど)
そういえば、F-35 の話とは関係ないけれど。帰りに DFW で保安検査を通ったとき、機内持ち込み荷物が脇にのけられて追加検査を食らった。カメラが 2 台、レンズが 3 本、ノート PC など、フツーの乗客が持ち込む荷物の内容ではなかったから、見咎められてもしゃあない。
で、少し待たされた後で TSA のスタッフのところに回されたわけだけれど。蓋を開けて中身を調べて、「問題なし」となったら、そのスタッフは両手でサムアップ。釣られて、こちらも片手でサムアップして「どもども」。
怪しいと思ったらちゃんと検査するけど、それで大丈夫と判断したらパッと態度が変わる。これも、メリハリがハッキリしている一例かも知れない。
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