Opinion : いつも気分は三合目 (2016/11/7)
 

宇宙開発は専門外だから詳しい話になると分からないけれども、中国が長征 5 なる SLV (Space Launch Vehicle) の打ち上げを成功裏に実施したことで、宇宙に関心を持つ人達を中心に、いろいろいわれている様子。

一方で「中国のロケットなんてパクリだ」といって心の安寧を得ようとする人がいれば、他方には「中国を馬鹿にしてはいかん」という人もいる。そんな、あれやこれやの反応を見ていて思ったのだけれど。

アメリカやロシアが高性能の新型 SLV を送り出しても、同じような騒ぎになったかというと、たぶん違う。もっと落ち着いた反応になっていたんじゃなかろうか。「あの辺ならやっても当然だよね」みたいな。

しかし、中国が相手だったから「ざわついた」反応になったのではないか。なんてことを考えた。その理由は、たぶん、こんなところ。

  • これまで「格下」だと思っていた
  • 「あそこに先を越されるのはプライドが許さない」と思っていた
  • 最近、何かと対立因子を抱えている

そして、「馬鹿にして心の安寧を得ようとする層」を相手にして、そういう人が喜びそうな記事を書いて商売する人や会社も出てくるわけだけれど、そっちの話は措いておくとして。


以前から書いているように、日本が「最先端」「一等賞」でいるのが当然、と思っている人と、そうでない人と、おそらくは世代によって認識が違う。

昔は日本の工業製品といえば「安かろう悪かろう」だといわれていたし、欧米のメーカーから「パクリだ」と物言いをつけられたこともあった (それが事実かどうかは別として)。海外旅行に出たときのマナーを、あれこれいわれたこともあった。

そういう意味では、今の中国あたりが通っているのは、日本にとっても「かつて来た道」であるわけだけれど。

「Japan as No.1」なんていわれるようになった時代より後のことしか知らないと、「最先端」「一等賞」でいるのが当然、という認識になるのも無理からぬところ。でも、それが間違いの元。問題は、それが当然であり、放って置いても今後も維持できる、と思ってしまうこと。

誰だって頭をとろうとして努力しているのだから、ボヤボヤしていたら簡単に追い抜かれてしまう。「一番でなければいけないのか」「二番手で後を追っていればいいじゃないか」なんてことをいっていたら、たちまち置いてけぼりを食う。

…という話は以前に書いた。それがたまたま SLV の分野で具現化して、しかも相手が中国だったのでアワを食う人が出た。といったあたりが、長征 5 をめぐる反応が分かれた一因になったんじゃないかと。

実は SLV に限った話ではなくて、経済の話も同じ。「今の繁栄や豊かさが、放っておいても未来永劫に続く」と思うから、「経済成長しなくていい」とか「経済成長より心の豊かさを」みたいなことをいう人が出てくる。でも、こちらの分野も熾烈な競争にさらされているのは同じだから、放っておけば没落しかねない。

オーストラリアで潜水艦の受注を取り逃がした話だって、驕りがあったのでは。いつも書いているように、民生品が優秀でも、武器輸出の分野では日本は新参者。この案件を獲りたければ、官民の総力を挙げて他国と同等以上の好条件を提示して、それでようやく他国と同じ土俵の際に両手が掛かる状態だったろうに。


しつこく繰り返すけれど、「一等賞で当たり前」「勝てて当たり前」意識を捨てること。上を目指す意識、挑戦者としての意識を持ち続けること。

意識だけじゃなくて、リソースもつぎ込むこと。身も蓋もないことを書いてしまえば、カネがあるところに才能も集まるのだから、「この分野で頭をとる」と決めたら、そこにリソースをつぎ込まないとあかん。

自分の仕事もそうで、今の地位に安住していたらダメだと思うから、勉強をするし、ネタを仕込むし、新しいチャレンジもする。そのためには資金も時間も投入する。その分、どこかで割を食っている部分もあるだろうけれど、それはそれ。

国のレベルでも企業のレベルでも個人のレベルでも、焼け跡時代まで遡って… では極端すぎるとしても。意識の中では、ワザと自分を三合目あたりまで突き落として、そこからもう一度這い上がる。というぐらいの意識でちょうどいいと思うよ ?

お知らせ : 来週は都合により休載します

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