Opinion : 権力者の限界 (2016/11/21)
 

トランプ次期米大統領が選挙期間中にいろいろな発言をしていた。それに絡んで「丸」で記事を書いたときに、「責任ある地位に就けば現実と向き合わざるを得ない」と書いた。

これはいつぞやの社民党・村山政権の話を念頭に置いたものだったけれど、実のところ、もっと普遍性がある話でもある。政治の世界に限らず、会社でもその他の組織でも同じじゃなかろうか。

その「現実」には、「自身が掲げる理想通りに物事が進むとは限らない」という話だけでなく、「自身が権力者であっても、好き放題に物事が進むとは限らない」という意味も含む。


アメリカの大統領や国防長官でも、あるいは日本の防衛相でも、就任前、あるいは就任後に「○○を△△したい」という類の発言をすることはよくある。でも、いくら国や組織のトップでも、トップの一声だけでその通りに話が進むと思ったら大間違い。

ことにアメリカの場合、実際に国費を動かして何かをするには議会が歳出権限法を策定して (←策定するのはあくまで議会である点に注意)、それを可決・成立させないと話が進まない。

これは国防予算でも同じことで、たとえば「F-22A を再生産したい」という声が上の方から降ってきても、議会が同意して予算をつけなければボツになる。しかも、上院と下院の両方で別々に国防歳出法を作ってからすり合わせを行うから、上下両院を納得させないといけない。

でもって、アメリカの議会における地元への利益誘導は清々しいぐらいにあからさまで露骨だから、「F-22A の再生産」となればジョージア州やテキサス州の議員がハッスルするだろうし、「いや F/A-18E/F の追加を」とミズーリ州やワシントン州の議員が巻き返しに出る場面だってあり得る。

実際、過去にはミズーリ州選出の議員が「州兵航空隊 (ANG : Air National Guard) 配備用に F/A-18E/F を」と仰天提案をしたことがあったぐらい。さすがにこれは具体化しなかったが。

つまりは何をいいたいのかというと、いくら世界最高の権力者とかなんとかいわれるアメリカの大統領であっても、単独でできることには限りがあるし、実際にはブレーンや議会との間で調整を図ったり、軌道修正したりせざるを得ないということ。

国防長官や防衛相だって同じで、「トップの鶴の一声でトップダウン式に決まっちゃう」なんてことがそうそう起きないのは、実際に組織の中で仕事をした経験がある人なら、容易に理解できる話なのでは。

よしんば「トップの鶴の一声でトップダウン式に決定」に見えたとしても、実際にそうだったかどうかはまた別の問題、ということだってあるだろうし。


なんていうことを書くと、「実はアメリカの大統領といえども、世界を影から操る闇の陰謀組織の操り人形に過ぎないから、できることには限界が生じるのだ !」みたいな与太を飛ばす人が出てくるかも知れない。でもねえ。

よしんば、その「世界を影から操る闇の陰謀組織」が実在するのだとしても。それが「組織」であれば、複数の構成員がいるわけだから、そこで意見や利害の対立が生じる公算が高い。するとそこでもやはり、「調整」とか「軌道修正」が生じてもおかしくない。

うちみたいに一人暮らししていれば、自分の家の中のことぐらいは自分の独断で好きなようにできる。でも、家族持ちなら、家族の間で意見を聞いたり調整したり軌道修正したりということになる方が普通では。ましてや、それより規模が大きい話になれば、なおのこと。

とどのつまり「三人寄れば意見対立」「三人寄れば要調整」となるのが普通なわけで、どんな権力者でも、そのプロセスは避けて通れないんじゃないかと思うのだけど。もちろん、ときには例外となる独裁者がいたことは否定しないけれど、誰もがそんな好き勝手にやれたわけでもあるまい。

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