Opinion : 個人の強さ・組織としての強さ (2017/1/23)
 

こういう仕事をしていていちばん困るのは、「○○と△△はどっちが強いんですか ?」とか「××国の◆◆部隊ってすごいんですか ?」といった類の質問。んなもん、簡単に定量的に測れる話じゃないのだから、訊かれても答えようがない。

でも、そこで単純二分して「強い or 強くない」「すごい or すごくない」で答えないと相手は納得してくれないのだから困る。


さて。杉山隆男氏の「兵士」のシリーズを読んでいると、しばしば「自分のスキルを高めたい」と口にして、努力している自衛隊員が出てくる。やったことがないからいまひとつピンと来ないけれども、たとえば ACM。

そういえば、災害派遣に出たヘリコプターが、狭いところに器用に着陸してみせる場面が報じられて「すげええええ」という反応が生じるのも、よくある話。これもまた、スキルを高めたことの成果だし、それが実際、いざというところで役に立っている。

それを腐すつもりは毛頭ない。自分自身のスキルを高めようと努力するのは、とてもいいこと。ただ、個人の術力を磨き上げることと、組織としての戦闘能力を磨き上げることは別の問題なんじゃないか。とも思える。

そんな思いが強まってきたひとつのきっかけが「寝不足の自衛隊幹部」の話。なにも自衛隊に限らず、会社でもその他の組織でも、「寝食を忘れて仕事に没頭する美談」みたいな話はちょいちょい出てくる。

「仕事に一生懸命」なのはいいけれども、寝不足になったら頭の回転が悪くなって、結果として仕事の成果に悪い影響をもたらすんじゃないか… という発想は、日本の社会にはあまりないんだろうか。

第二次世界大戦中、たとえば米軍の航空機搭乗員は「○○回の出撃を消化したら後方に下がって休養」という制度が確立していた。もちろん、交代するパイロットをちゃんと養成できていたから実現できた制度ではある。でも、それを言い訳にして終わりにしてしまってはいけない。

どんなに優秀なパイロットでも、前線にずっと張り付けられていたら疲弊する。優秀なパイロットほど現場が頼ってしまい、手放したがらないというのもありそうな話。でも、それは結果として、その「頼りになる優秀なパイロット」を失うリスクを高める。

実際、そうやって頼りにされて扱き使われた挙句に戦死した名パイロットは、何人もいた。そうなると「個人としては強くても、組織としてみたらどうだったの ?」という話になる。


つまりこれが本題。軍隊組織に限ったことではないけれど、いくら個人の術力が高レベルでも、「寝ないが美徳」「ずっと最前線に張り付けて酷使」の組織では疲弊してしまう。そして、磨き上げた個人の術力を発揮し続けることができなくなり、すりつぶしてしまう。

それは「個人としては強くても、組織としては強くない」といえるんじゃないだろうか。個人の術力を磨き上げることだけでなく、その術力をフルに発揮し続けられる組織風土があって、初めて「強い組織」になるんじゃないか ? という話になる。

あと、指揮官が寝不足などの理由で疲弊してしまうと、判断ミスにつながる。指揮官の判断ミスがもたらす影響は、現場の判断ミスよりずっと大きい。指揮官に判断ミスをさせるような状況を改善できない組織もまた、強い組織とはいえないかも知れない。

そういえば。「私だって寝ていないんだ !」といってマスコミが喜ぶ燃料を投下してしまった社長がいた。ちゃんと寝ていれば、「そんな発言をしたらまずい」という判断ができていたかも知れないなあ… なんてことを、ふと思った。

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