Opinion : 鉄道写真撮影趣味をめぐる徒然 (前編) (2017/5/15)
 

「四季島」初日の「上野駅に目隠し回送電車 ?」の話や、それと前後してあちこちで持ち上がったあれやこれやが原因で、ここのところ Twitter の TL がいわゆる「撮り鉄問題」で騒々しいったらありゃしない。

実のところ、これって今に始まった話ではなくて、1960 年代あたりから「問題行動」だの「人が集まりすぎて大騒ぎ」だの「罵声大会」だのという話は繰り返されてきている。構内で列車に轢かれて死者が出た、なんて事件もあった (それが「撮影中」ではないのが、にんともかんとも)。

あと、いわゆる「ブルー トレイン ブーム」の際には、夜間に走行中の列車に向かってフラッシュ撮影をやった阿呆が続発していたそうだ。(といっていたら、昨日、四国の方でなにやらトンでもないことがあったと聞いた)

昨今では、「とりあえず撮り鉄叩きをしておけば正義」みたいな風潮もあるわけだけれど、その背景には複合的な事情があるように思えたので、それを書いてみようと思った次第。


「自分が撮りたいと思った写真を撮るためには、もう見境がつかなくなる」が根本にあるのは確か。数年前に訪れた美瑛あたりでは、撮影のために畑にズカズカ乱入する輩がいて地元で苦慮しているというし、どこの世界でも程度の差はあれ、似たような傾向はあるらしい。

ただし鉄道の場合、それが「駅」あるいは「線路脇」という、比較的身近な空間である上に、集まる人の絶対数が多いから目立つ。人が増えればおそらくは、問題行動を起こす人も混じりやすい。

問題のひとつは、その「撮りたいと思った写真」にあるんじゃないか。

ことに鉄道の場合、撮影できる場所は案外と限られる。そして、撮影地に関する情報は書籍やネット情報などを通じて広く共有されているから、そこに人が集まる。そこで「えー」と思うのは、昨今の「お手本」「作例」に対する過度の拘り。

世の中、何を思ったのか「お手本・作例は神聖にして外れるべからず」になってしまい、その通りに撮れないとダメ、と all or nothing 思考に陥っている人が少なくないように見える。もっとフリーダムでいいじゃないかと思うのだけど。

実際、現場に行ってみて「理想通りの天気じゃない」と知った途端にふてくされる人がいる。んなもん、天候は個人の力でどうこうできるものではないのだし、目の前にある状況の中で、どう最善を尽くすかを考えないと。もちろん程度問題で、さすがにザーザー降りの雨になれば、諦めざるを得ないにしても。

あと、「串パンはダメ」「タイガーロープがかかったらダメ」、「草がかかったらダメ」(だから草刈りという話が出てくる)、「電化柱がかかったらダメ」とかなんとか、あちこちでいわれる NG マターは増える一方。

それどころか「貨物列車のコンテナの積載が悪い」なんて不平を垂れる人までいる。そりゃ撮影者じゃなくて荷主の問題だ。まさか、皆でカンパし合ってダミーのコンテナを積荷に加えてもらうわけにも行くまいに。


なんでこんな面倒くさいことになってしまったのか。そこで思い当たるのはネット環境の普及、なかんずく SNS の普及。

昔だったら純然たる「自己満足」で、自分の基準で自分が満足できる画をものにできればよかった。それが今は、他人の基準で他人が満足できる画をものにしないと評価されない。というか、そういう思い込みに囚われやすい状況になっているのでは。

もちろん、自分が撮ったものを他者に見てもらいやすくなったメリットはある。ところが一方で、他者がズカズカと乱入して来やすくもなった。そして、赤の他人のところに乱入しては「あれがダメ、これがダメ」とケチをつけて回る暇人があちこちにいる。

ここでは鉄道撮影の話について書いているけれども、飛行機撮影でも似た感じがする。そしてミリタリー趣味だと「俺は他人が知らないことを知っているぞ」といってマウンティングする。根っこのメンタリティは、たぶんみんな似ている。

つまり、本来なら「自分の楽しみ」を追求するものだったはずの趣味が、他人に承認されるための道具に変質してしまったり、他人に対して優越感を誇示するための道具に変質してしまったり、という状況にあるのではないか。

そして鉄道撮影の場合、それが「いかに決まり事に忠実に撮るか」が評価軸になる、という形で現れてきているのではないか。それだけではないかも知れないけれど。

そうなると、もう「承認されるお手本からの逸脱」なんてトンでもないという話になり、その逸脱を防ぐためなら見境がつかなくなる場面も出てくる、と。そんな状況にあるんじゃないかと思ったのだけれど、どうだろう。

こうしてみると、ことに SNS の普及によって、楽しみやメリットが広まる以上に不幸が拡散してるんじゃないか、と思えなくもない。

と、ここまで書いて気付いたけれども、「昔から受け継がれてきたお作法から逸脱することが許されず、お作法通りの成果物を持ち帰ろうとして見境がつかなくなる」話って、別のどこぞの業界にもあるな。

(つづく)

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |