Opinion : 簡単に「自動運転できる」なんていわないでもらえます ? (2017/10/2)
 

世の中には、「うまく発音するのが難しいフレーズ」というものがいろいろある。そのひとつが「交通集中による渋滞」。簡単にいえそうだけど、往々にして「こうちゅうしゅうちゅうによるじゅうたい」になる。ネズミはどこだ。

「シャー少佐」と 3 回続けていおうとすると、たいてい途中でうまく行かなくなる。それと同様に、「交通集中による渋滞」も、アナウンサーや演劇や落研などといった分野で、練習用の教材に使えそう。

さて。昨日は東名高速で渋滞に巻き込まれたけれど、これは一応は「流れて」いたので、まだマシ。その前の週に中央道上り線で突入した渋滞は、走っている時間よりも止まっている時間の方が長かったんじゃないだろうか。測ってみた訳じゃないけど。

その二週続きの渋滞突入に共通していたアイテムが、「交通集中による渋滞」と「事故渋滞」のコンボ。特に中央道のときには、事故渋滞の波状攻撃を食らって散々な目に遭った。


いつだったか、「道路交通の安全は相互信頼で成り立っている」という話を書いた記憶がある。

鉄道だったら、「閉塞」という概念と信号保安システムがちゃんと機能している限り、衝突は避けられる。民航機だと、大洋上でもない限りは地上のレーダー網が監視してくれることが多いし、管制官もいる。

あと、民航機なら TCAS (Traffic Collision and Avoidance System) があるし、(うろ覚えだけど) 船舶にも衝突警報の仕掛けがあったような。そもそも、レーダーを回していれば暗夜でも衝突回避に役立つ。

では道路交通はどうかというと、まだまだ「人」に頼る部分が多い。「ドライバー同士の相互信頼に依存」とは、そういうこと。周囲の状況を見張り、衝突や接触を避ける部分は、基本的にドライバー頼み。しかも「目視」がメインである。

ただ、歳を食ってくると注意力や反射神経が鈍るので、BP レガから乗り換える際には「EyeSight 付き」を必須条件にした。BP レガを買ったときには「AWD、ワゴン、レギュラーガス、MT」という条件を付けたけど、GP インプでは「AWD、レギュラーガス、EyeSight」。

もちろん EyeSight も万能ではなくて、ときには機能しないことがある。前にクルマがいるのに認識しない、という経験はないけれど、白線が薄かったり消えたりしていると、車線逸脱防止機能はたちまち使えなくなる。

常に車線逸脱防止が機能している、と信じ込んだら危険きわまりない。機能しているかどうかにも注意を払う必要がある。もっとも、そちらに注意力が集中して周囲の状況認識が怪しくなれば、それもまた危ないけど。

そもそも、衝突防止にしても車線逸脱防止にしても、EyeSight 任せにできるわけではなくて、あくまで、安全を維持するのはドライバーの仕事。それを EyeSight がアシストするという図式。

道路の条件が多種多様で、安全装置の有無や、そのレベルもバラバラ。そういう状況下で自動運転まで踏み込むのは、簡単なことではない。率直にいって「どんな道路でも自動運転できる」なんて日は来ないんじゃないかと思うぐらい。

前車追従のクルーズコントロールにしても、人間ほど器用なことはできないから、どうしても運転がギクシャクする傾向がある。がら空きの高速道路でなら重宝するけど。

結局、「道路交通はドライバー同士の相互信頼に依存する」という図式は簡単には崩れそうにない。そんな中で、その相互信頼を危うくするよなあ、と思う場面によく遭遇するのが、実は週末の高速道路。

状況に慣れているドライバーが多ければ、危険の予測や回避がしやすいし、そこにはある種の「秩序」が成り立つ。でも、状況に慣れていないドライバーが増えると、その「秩序」が崩れる。

しかも週末はトラフィックが多いから、渋滞が発生してイライラさせられる場面が多い。そこで、ちょっと隙間ができると車線を変えて前に出ようとしたり、アクセルを踏んづけて馬鹿みたいにぶっ飛ばしたり、かと思えば地形が頭に入っていないから上り坂にかかって減速しているのに気付かなかったり。

そういう場面が続発すれば、そりゃ事故も増えようというもんである。それでも、衝突事故ぐらいなら驚かないけど、クルマが炎上して渋滞を引き起こしたケースに遭遇したときには驚いた。どういう整備をやってたんだろう、あの日産マーチ。


かようにカオスな道路交通の現場で、安直に「自動運転ができます」なんていう人やメーカーや技術者がいたら信用ならない。「運転も安全確保もドライバーの仕事です。それをアシストするためのメカは付けます」という方が誠実だし、実情に即している。

進路構成は地上側の仕事で、信号保安システムも完備している鉄道であれば、まだしも「自動運転」のハードルは低いし、実際、ずっと昔から ATO の稼動事例はある。でも、それだからこそ「ウデがなまらないように」といって、わざと有人運転することがある。条件が恵まれている鉄道ですら、それぐらい慎重にやっている。

飛行機や船舶にしても、オートパイロットに任せられるのは広々したところで巡航している場面だけ。混雑してくれば人間の出番。UAV だって、人間が遠隔操縦している場面は結構ある。

だから、「戦闘機の無人化ができます」という意見にも懐疑的になる。任務の内容が比較的シンプルならともかく、戦闘機の任務はシンプルじゃない。それを簡単そうに「無人化できます」なんていう人がいたら、怪しいと思うことにしている。

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