Opinion : 相対比較の罠〜ラーメン単位とトライスター単位 (2018/1/29)
 

先日、こんなサイト の話が Twitter で流れてきて、つい遊びまくってしまった。

もちろん、こしらえた当事者の意図は分かっている。「辺野古の新基地がこーんなにでかい、怪しからん !」とアピールしたかったのであろう。実際、埋め立てに投入する土砂がダンプ何杯分、なんてこともいっているわけだし。

ところが、実際にいろいろな施設と比較してみると、「意外と大きくないのだなあ」という感想になってしまう。自分がやったように八郎潟だの夕張シューパロダムだのを持ち出すのは「やり過ぎ」であるにしても。

同じ埋立地である関西空港や中部国際空港の方がはるかに大きい。羽田空港と比べても、成田空港と比べても、いや、厚木基地や横田基地と比べても (辺野古の方が) 小さい (怒れ神奈川県民)。東京ディズニーリゾートや横須賀 SRF と同じぐらい、というサイズ感だろうか。

かくして、あちこちの空港を初めとする巨大施設と比較されて、オモチャにされてしまう仕儀となった。

それにしても、辺野古に建設する滑走路の差し渡しと同じぐらいの長さがある、フォートワースの空軍プラント No.4 の建屋って、でかすぎるだろ…


といったところで思い出したのが、天藤真氏の傑作小説「大誘拐」に出てくる、「ラーメン単位 vs トライスター単位」の話。

この小説のキモは「100 億円の身代金」であるわけだけど、その 100 億円という数字。「生活者の目線」で見れば巨額である。それが「ラーメン単位」で、「100 億円ってインスタントラーメン何袋分だっけ…」となる。

でも、世の中にははるかに巨額な品物が掃いて捨てるほどある。「大誘拐」が出たときには L-1011 トライスターが国内線の第一線にいたから「トライスター単位」になったけれど、今だとエアバス A319 が 1 機分ぐらいである。

そして、今だとまだ、100 億円では F-35A・1機分にもならない。今後の値下げ努力に期待しよう。目標単価は 8,000 万ドルだから、今の為替相場で 8,000 万ドルなら 100 億円を切れる。

さらにスケールの大きい話をすると。昔は「地下鉄を 1km 建設するのに 200 億円」なんていわれていたものだけど、今ならもっとするだろう。仮に 200 億円としても、100 億円では 500 メートル掘ったところで資金切れである。1km 300 億円なら 333.3m で資金切れ。


もちろん、オモチャにされたり、「意外と小さい」という感想が続発したりしたのは、サイト主にとっては不本意もいいところだと思う。では、なんでそんな不本意な結果になるようなものを作ってしまったのか。

あたなの街 あなたの街と比較してみよう」といっているのでお分かりの通り、本来の狙いは身近な街、馴染みのある街との比較であったのだろう。ところが実際には、巨大施設と比較する人が続発した。

要するに、「身近な地域のスケール感」という「生活者目線」でだけ評価されると思ったのが大間違いなんである。

Twitter でも書いたことだけれど、確かに「向こう三軒両隣の生活者目線」で比較すれば、巨大な施設であるのは間違いない。ところが、世の中にはそれを遙かに上回る巨大施設がゴロゴロしている。

同じ面積でも、そういった巨大施設と比較すれば小さく見えてしまう。つまり「相対比較の罠」である。「○○と比べて (大きい | 小さい)」というアピールの仕方をするということは、狙い通りの結果が出るかどうかは「○○」の選び方に依存するということ。

絶対的なサイズだけを取り上げれば、そういう問題は起こらない。しかし、いきなり「○○ヘクタール」とか「○○万平方メートル」とかいわれてもピンとこない。そこで手っ取り早く「相対比較」に持ち込んだことが、結果として墓穴を掘ることになってしまったわけ。

とどのつまり「こんなに大きい施設を作るなんて…」という論理展開そのものを見直した方が良かったのかも知れない。今後の参考までに。

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