Opinion : 「銀の弾丸」は程々に (2018/2/12)
 

軍事の世界では以前から、「銀の弾丸」(silver bullet) という言葉がある。要するに、主として装備面でハイレベルにある部隊、あるいは装備そのものを指す言葉。

もちろん、「損失が生じても代わりがある」方が望ましいのが軍事組織というものだから (いや、普通の会社や役所でも似たようなものか)、すべての部隊、すべての装備が同一、かつ可能な限り高いレベルで揃っている方がいいに決まっている。

しかし現実問題としては、すべての部隊の装備・人員を同一水準で揃えるのは難しい。結果として、「銀の弾丸」が出現することになる。その出現パターンには三種類あると思われる。

ひとつは、最初から数を揃えるつもりがない (または数を揃えられないことが分かっている) ために、一部の部隊に限定したケース。空自の F-15J 近代化改修機はこれだろうか。部隊でいうと、「混成航空団」を標榜していた時期の 366TFW が該当しそう。

次は、最初は数を揃えるつもりだったものが実現できず、結果として「銀の弾丸」になってしまったケース。F-22A や B-2A はこれ。願わくば、F-35 が同じ轍を踏まないように。

最後は、数を揃える過程で最初に導入した部隊が、過渡的に「銀の弾丸」になるケース。湾岸戦争のときに AIM-120 を真っ先に導入した 33TFW がこれ。


最後のケースは、将来的に配備が拡大して底上げにつながるので、措いておく。問題はその他のケース。

何が問題かというと、「銀の弾丸」が過重負担になる懸念がある。実際、第二次世界大戦中の日本軍では、数少ないエース パイロットが酷使されて、結局は戦火に倒れてしまった事例がいくつもあった。

部隊にしても、たとえば陸軍の 22 戦隊は四式戦を装備して中国戦線に出て行って、あちこちの方面に引っ張り出された挙句、結果として部隊を磨り潰してしまった。1 個戦隊しかいないのに、その数少ない手駒を各方面に分派していたというから、推して知るべし。

なにも、日本でだけこういう話が多発したわけではないだろうけれど。ただ、過去の実績 (?) があるだけに、なまじ「銀の弾丸」をこしらえてしまったときに、そこが過重負担になる可能性が懸念される。

現に、F-15J の近代化改修機は南西方面に集中配備されている (それ自体は正しい)。そして、出番が多いせいもあって、飛行時間がどんどん伸びているとかいう話がある模様。

ひょっとしたら、非近代化改修機より近代化改修機の方が先に構造寿命が来て、代替なり延命なりという話になりはしないか。


平均値が同じでも、ピークとボトムの差が大きく開いている場合と、ピークとボトムの差がさほど開いていない場合がある。どちらも平均値は同じだから、そこだけ見ていると同じことだと勘違いする可能性がある。

でも、ピークとボトムの差が開いていて、そのピーク (つまり銀の弾丸) にあたる部隊や装備が酷使されて磨り潰されてしまった場合、後詰めのレベルが一気に下がってしまう。

ということを考えると、一部の部隊だけを突出させて「銀の弾丸」化することは、総合戦力という観点からするとネガがあることになる。

以前に、「通常部隊あっての特殊作戦部隊」ということを書いた記憶があるけれども、他の分野だって事情は似たようなもの。

火の出る正面装備の話に限らない。C4ISR 分野も同じこと。ことに通信とか情報共有とかいう話になると、全体で同一水準の情報共有・指揮統制システムを構築しないといけない。内輪で「圏外」を作るのは、まったくもってよくない。

だから、一部分だけ「ネットワークシステムを導入しました」といってドヤ顔しているようでは話にならない。過渡的に一部分だけになるとか、運用評価・試用のために当初は一部分に限定するとかいう話はあるにしても、最終的には全体に展開するつもりでないといけない。

システムそのものの機能水準がどうかという話は別として、少なくとも三軍共用のネットワークを実際に構築して活用している点で、イスラエル国防軍の Tsayad システムは高く評価されていい。

ちゃんとつながってこそのネットワーク システムだし、そこで「銀の弾丸」を作るのは、まるで賢明ではない。

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