Opinion : いわゆる日報の一件を聞いて思ったこと (2018/4/9)
 

例の「日報問題」について、なんとなく「政治サイドと制服組の関係がしっくりいっていない、なんてことはないだろうな ?」という漠然とした不安を感じている。もちろん、これが杞憂で済んでくれれば、その方が良いに決まっている。

海外の架空戦記小説を読むと、ときどき「政治に振り回されるのが不満な軍人」という場面が出てくることがある。要するに、政治的配慮に振り回されて作戦や任務をぶち壊しにされてはかなわぬ、という類の話。

実際、過去の歴史をひもとくと、そういう種類の話が出てくることはあるので、根拠のない不満だとはいえない。ただ、政治的目的を達成する手段のひとつが軍事力、というのも事実なわけで、政治の話が出てきたら天井だけ向いていればよい、というわけにもいかない。

政治的配慮、政治的目的が最優先で、そのためなら軍事的配慮や軍事的合理性などくそ食らえでは、余計な血が流れる危険性がある。逆に、軍事的配慮や軍事的合理性だけが最優先で、政治的配慮などくそ食らえでは、国の立場がまずくなる危険性がある。

どちらか一方だけを優先するのではダメで、「政治的目的を達成するために軍事力を使う。その代わり政治サイドにも、軍事的合理性にも配慮するとか、必要な人・カネ・モノはちゃんと用意する、とかいう配慮がないといけない。

その「必要な人・カネ・モノはちゃんと用意する」を煎じ詰めると経済力の話につながる。結局のところ、軍事力と政治力と経済力は、どれか 1 本が欠けたら全体がひっくり返ってしまう三本の脚ということになる。


ただ、海外派遣任務の日報の話になると、例の「戦闘地域である vs 戦闘地域でない」という議論の話に行き着いてしまうんじゃないの、なんてことも思った。早い話、「戦闘地域ではないので自衛隊を派遣します」というロジックがおかしい。

「危険な場所だから民間人をホイホイ出すわけにはいかない。危険な場面、危険な事態に備えて訓練された人を出さないといけない」という話がベースにあって、それで「自衛隊の海外派遣」と。それなら分かる。筋は通る。

無論、危険を承知で出すからこそ、防護用の個人装備、車両、宿営地の警備・警戒・防御、救命装備や医療の体制など、必要な仕掛けはちゃんと揃えないといけない。それは送り出す側の責任。

ちょうど、手元にある直近の JDW に、個人用防護装備の記事が載っている。ヘルメットにしろボディ アーマーにしろ日進月歩。より軽く、動きやすさを損ねない素材や製品を開発しようとしている様子が分かる。

ただしそうなると、今度はその防護装備に打ち勝つことができる弾や銃器を開発しよう、という話になって「矛盾」の故事を地で行くことになるのだろうけれど。

話を元に戻して。
そこで「悪いけど丸腰で行ってくれ」なんてことになったら、そりゃ政治サイドに対する不信感が出てきても当然。ましてや「戦闘地域ではないので、個人用防護装備も救命キットも不十分でいい」なんてことになったら問題外。

でもって、「戦闘地域ではないので出しました」という話になると、もしも何か交戦ないしはそれに類似する事態が発生して、報告が上がってきたときに、どんな事態になるか。それはもう容易に予測できる。

まず、野党がここぞとばかりに「戦闘地域になっているじゃないか、撤収しろ」といいだすのは目に見えている。それを避けたい与党としては、「戦闘地域ではない」という当初の話で押し切らざるを得なくなる。

そこで辻褄を合わせるために報告を表に出さなければ「隠蔽だ」ということになるし、出したら出したで前述の通り。そして、現場が「戦闘地域ではない」という建前の下で不十分な装備しか持たされないことになれば、その現場がいちばんの被害者になってしまう。

なにやら、以前に書いた記憶がある「"危険だ" という理由で何かに反対するのは筋が悪い」という話に似ている。


と、これだけ見ると「野党が悪い」だけで済まされそうな話の成り行きになってしまっている。そういう一面があるとは思うけれども、それだけでもあるまい。

本来なら足並みを揃えて動かないとまずい永田町と市ヶ谷の関係、大丈夫なの ? という個人的な不安が根底にあるから。ここ数日の報道が正しければ、書類があるのは分かっていたのに報告が上がっていなかった、というのだから。

政治の立場と軍事の立場と、互いに相手の立場を尊重しつつ、でも自分の立場も主張して、最善の落としどころを見つける。と、そういう風に物事が動いていかないと、みんな不幸になってしまう。

意思決定する側に正しい情報が上がらないと、正しい判断ができない。判断を間違えた結果は、すべての国民に降りかかってくる。

そりゃま確かに「文民統制」というけれども、文民が制服組を一方的に従わせるだけではうまくいかないだろうに。

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