Opinion : 攻撃ヘリの必要性に関する徒然 (2018/6/25)
 

「○○はもうオワコン」とか「○○はもう要らない」とかいう論が出てくると、それに反論する人が出てくるのは、どんな業界でもお約束。それはいいのだけれど、どちらの論にしても、あまり雑な論旨展開をするとなぁ、という話は以前に書いた。

以前のお題は「超音速対艦ミサイル」だったけれど、今回のお題は「攻撃ヘリ」。一応、要件定義をやっておくと、「攻撃ヘリ = タンデム複座の武装ヘリ」である。


昨今、攻撃ヘリに対する風向きは、決して追い風ばかりとはいえない。もちろん、新たに攻撃ヘリを買うとか、既存の攻撃ヘリを新型機に代替するとかいう国はあるけれども、皆が諸手を挙げて攻撃ヘリを買いに走るという状況でもない。

たぶん、理由はふたつある。ひとつは「価格高騰」。汎用ヘリと違って、武装もセンサーもハイレベルな製品が必要になるから、当然、お値段は押し上げられる。

しかも、エンジンやトランスミッションなら汎用ヘリと共用している事例があるものの、エアフレームは専用。そこに防弾装備まで用意しなければならないのだから、これまたお値段を押し上げる要因になる。

もうひとつの理由は、生残性に対する疑問。タンデム複座はシルエットを小さくして視認性を低下させる狙いだけれども、それが通用するのは目視の場合であって、赤外線センサーやレーダーを使われれば話は別。

そして、携帯 SAM に加えて短射程 SAM も性能向上が進み、しかもそれらがドコドコ普及している。そうなると、攻撃ヘリとしては分が悪い。昔なら、対空機関砲をアウトレンジできれば良かったけれど、当節では射程が伸びてきた SAM をアウトレンジできないと危ない。

ところが、アウトレンジするということは SAM より射程が長い ATGW が要るということ。すると、ATGW は大型化して価格が上がり、搭載量が減りかねない。しかも長い射程に見合ったターゲティングやホーミングの能力を持たせなければならず、これがまたお値段を押し上げる。

かくして「攻撃ヘリは費用対効果がよろしくない」という話になる。

それに対する反論の例で「いや、米陸軍は UAV との組み合わせで AH-64 を使い続けるではないか」というのがある。仰せの通り、その通り。でも、それだけでは論旨展開が雑。

大事なのは「UAV を併用して MUM-T (Manned and Unmanned Teaming) をやるかどうか」だけではなくて、その MUM-T で何を実現するか、生残性の問題を解決するためにどういう手を使おうとしているのか。

そこまで言及していれば、雑だなんていわないのだけど。

MUM-T といってもレベルがいろいろあって、UAV のセンサーだけ遠隔操作できるとか、UAV そのものも遠隔操作できるとかいう違いがある。「センサーだけ遠隔操作」で何ができるか、「機体も含めて遠隔操作」で何ができるか。大事なのはそこ。

と、そこまで書いておきながら、その先について書かないのは、お仕事で書けないかと考えているから。無論、自分なりに考えているシナリオはあるわけで。


面白いことに、MUM-T の活用と ATGW の長射程化でアウトレンジ、あるいは攻撃ヘリ自身が (相対的に) 安全な場所に身を隠したオペレーションができるようになると、タンデム複座にして視認性を下げる必然性は減るんじゃないだろうか。

だって、そもそも敵さんが目視できるような場所まで近寄らないようになるわけだから。もしもそういう方向に話が進んだ場合、汎用ヘリの武装化という選択肢にも現実味が出てくる。

もちろん、「餅は餅屋」で攻撃ヘリの方が有利な場面があることは否定しない。ただ、そのためにかける費用が妥当かどうかという議論は必要だし、「どんなハードウェアが必要か」という話より先に「どんな運用構想があって、それを実現するためにどんなケイパビリティが必要か」という話をしないといけない。

そして、「今はタンデム複座の攻撃ヘリがあるのだから、その後継機もタンデム複座の攻撃ヘリでなければならない」というだけでは、雑な議論の極めつけ、単なる思考停止である、とはいいたい。

マニア的には、武装化した汎用ヘリが、専用の攻撃ヘリと比べて「格下」に見えるのは致し方ないところではあるけれどね…

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