Opinion : 炎上/頓挫といってもいろいろある (2018/7/30)
 

先週、装輪装甲車 (改) の開発中止が決まった、というニュースがあった。もともと、最初に現物の写真が出てきたときから「コレジャナイ感」はあったけれど、それにしても「あーあーあー」といわざるを得ない。

リリースされている「防弾板の性能不足」という理由が本筋なのか、それ以外にも何か理由があったのかについては言及しないことにして。もうちょっと一般論的なことを書いてみる。


過去のいろいろなプログラムの経緯を見てみると、新兵器の開発計画が頓挫した場合、それはいくつかのパターンに分けられる。

まず「そもそもの要求仕様が無茶振り」。つまり、その時点での技術水準を遙かに超えた要求をするとか、物理的に無理な要求をするとか。この場合、「要求性能を達成できなかった」といって中止になったり、別のところにしわ寄せが行ったりする。

「過酷な要求を突きつければ、技術者が頑張ってモノにしてくれる」なんていうのは、単なる根拠レスの根性論に過ぎない。根性で物理法則は超えられない。もっとも、CONOPS がはっきりしないのに何か作らせようという方が、もっと良くないかも知れない。

それの、もうちょっと穏当なパターンが「熟成不足」。リスク低減フェーズの作業を省いたり、それが不十分な状態で見切り発車してしまったりすると、これに該当する。この場合、開発が進んだ段階で不具合が続発ということになる。

それの派生形で、「ちゃんと熟成できたと思っていたけれど、開発が進んでみたら不具合がボロボロ出てきた」というパターンもある。ソフトウェア制御のものが増えている昨今では、ソフトウェアがらみでこれが出ることが多そう。

どちらにしても、不具合対処のために時間と費用が嵩む事態は不可避。それで済めば頓挫には至らないものの、会計監査部門やマスコミには叩かれる。遅延やコスト超過の度が過ぎると、目を付けられて中止に追い込まれることもあり得る。

そのスケジュール遅延にしても、後から不具合などが露見して遅れたのか、当初の見積もりが楽観的すぎたのか、最初から無茶振りなスケジュールを押しつけられたのか、で意味が全然違ってくる。

次に、「開発・生産に際しての能力不足」。受注はしてみたものの、要求された能力のモノを作るだけの技術水準が備わっていなかったとか、設計した通りのモノを作ろうとしたら生産技術が伴っていなかったとかいうパターン。

コンポーネントや素材が単体では性能が出ていたのに、設計や実装に問題があって完成品では性能が出なくなった、というパターンもあり得る。

そして「周辺状況の変化」。ある局面を想定して新装備を開発していたら、その局面自体が消えてしまい、どう見ても発生しそうになくなった等の、冷戦崩壊後にありがちだったパターン。

こうなると必要性を認識させるのか難しくなり、おカネを出してもらいにくくなる。そこで別の用途に振り替えたり、それに付随して設計変更を取り入れたりして切り抜けられれば助かるけれど、常にそうなるとは限らない。

とどめが「政治的介入」。状況の変化と連動していることも多いけれど、それだけとは限らない。関連するバリエーションとして、「モノはできたが、それを調達するカネがない」というのもある。


結果が同じ「頓挫」でも、ザッと挙げただけでこんな風にいろいろな事情がある。してみると、頓挫あるいは炎上といった表面だけを見て、それで騒いだり腐したりするのは、騒いだり腐したりすること自体が目的なんじゃないの、といわれても仕方ない。

じゃあ、冒頭でつかみの話題に使った装輪装甲車 (改) についてアンタはどう思うんだ、と訊かれたらどう答えるか。

「まず装輪 AFV のグランドデザインを明確にした上で、共通して使えるプラットフォームやパワートレーンを作る必要があるんじゃないの ?」とはいいたい。部分最適よりも全体最適。

結果的には、最初に何かひとつのモデルを送り出すことになるけれど、それはあくまで後日の派生モデル展開が前提。装輪装甲車だったら、最初に作るべきは APC だろうと。

あべこべに、まず特定の用途に部分最適化したモノを作っておいて、後からそれを基に派生させて共通化・ファミリー化しようといっても、それは無理があるんじゃないかなあと。陸の上のことなんだから、グランド デザインは大事である (←グランド違い

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