Opinion : ただ支出を削ればいいってものではない (2018/11/5)
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先日、経理データをチェックしていたら、「なんか今年は支出がかさんでるなあ」と気付いた。よくよく考えれば、旅費がやたらとかさんでいるし、給湯器の交換はやっているし。
さらに、「コンパクトな飛行機撮り機材にならないか」ということでマイクロフォーサーズ機の試験運用に手を出して、しかも狙いを達成できずに損切りするというオチまでついた。そこに、望遠ズームの修理代という予定外の一発が加わった。
そりゃ支出がかさむわけである、と納得。そんなこんなの突発的な分を差し引いてみると、例年と比べて特別に多いわけではなさそう。(これを書くためにわざわざ計算してみた)
「支出がかさむなあ」というのはトータルの話だけれど、それだけ見てもダメで、「どこの分野でどれだけ支出がかさんでいるか。それは定常的なものなのか、一時的なものなのか」まで見極めないといけない。
単にトータルだけ見て「こりゃイカン、支出を削らなければ」となると、削っちゃいけないところを削ってしまう可能性がある。だから、分野別、パターン別の分類・見極めは不可欠。
あと、「削りやすいから削る」のか、それとも「削るべきだから削る」のか。さらに「この支出を削ったことでどんな悪影響が考えられるか」。分かりやすいところだと、食費をへつりすぎて身体を壊したら洒落にならない。
「アンタの場合、もともと少食だから食費は安上がりだろう」というツッコミは、なしで。
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それで何の話かといえば、「装備品の原価データベースを作ろうとしてうまくいっていない」と報じられた防衛省の話。
原価に関する情報を把握しなければ、適正利益率を上乗せした適正価格を設定するのは難しくなってしまうから、原価を把握しようとするのは分かる。
でも、それ以前の問題として、コストが上がるようなことを散々やっておきながら、その後でコスト低減のために原価管理を… なんて話が出てきた時点で「?」となってしまった。
自国向けに少量しか量産しなければコスト高につくのは当たり前の話。しかも、それを長い期間に分けて二階から目薬みたいに作れば、ますますコスト高につく。そうなるとメーカー側からすれば、生産設備のための投資もしづらい。
「確実な戦時減耗補充のためには国産化が必要」といっても、毎年、半ば手作りみたいにして少量ずつチビチビと作っている状況下で、戦時の急速増産なんてできるのかしら ?
もっとも、自国向けに限られるから数が出ないのは政治の問題だから、それは当事者には如何ともしがたい。それならそれで、そういう制約がある中でどう対処するか、と知恵を出す工夫が、どこまで行われてきたんだろう。
少なくとも対艦ミサイルの分野では、それが比較的うまく回ってきているように思える。陸海空とファミリー展開して開発と生産を進めて、開発成果も無駄にしていないように見える。
その発端になった ASM-1 のときには、官民で額を寄せ合って「いかにしてコストを下げるか」とアイデアを出し合い、工夫をしたという。そういう土台があって初めて、コスト低減と適正利益の両立につながる素地ができるんじゃないだろうか。
裏を返せば、一方的に「コストを下げろー」「利益を削れー」というだけではアカンということ。以前から何度も書いてきているように、適正な利益は確保できるようにしないと、産業基盤の維持もヘッタクレもなくなる。
この件については官民のどちらもステークホルダーなのだから、一方が「コストを下げろ」というだけ、あるいは「利益を出させろ」というだけでは破綻してしまう。お互いに一致協力して目標を追求しないと成り立たない。
では現状はどうかといえば、官が「産業基盤の維持が必要」といっておきながら、その産業基盤を損ねるようなことばかりしているとはいえないか ? それでは撤退するメーカーが続発しても不思議はないし、そうなってから「大変だ、大変だ」も何もあったもんじゃない。
「あれも国産、これも国産」といって「海外製品では要求を満たせない」「国産化の方が安価にできる」と理由を掲げてきたビジネスモデル (?) が成り立たなくなっているのに、出口を見つけられなくて袋小路になっているということじゃないだろうか。
FMS を目の仇にして、「もっと国産でやらなければ」というだけでは解決しない。「国産でやらないとまずい分野」を洗い出す前に (それをいいだしたら、何でもかんでも「国産で」となりかねない)、「国産でも事業が成立して競争力もある分野」を洗い出さないと。
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