Opinion : 用語選びに起因するゴタゴタ (2019/5/13)
 

同じ字面でも、時代によって、あるいは見る人によって、想起するモノが違うという単語がいろいろある。

自分の仕事の領域だと、典型例が「ドローン」。世間一般には空撮用の電動式マルチコプターを連想する人が多そうだけど、軍事分野に首を突っ込んでいる人なら「標的機」の話に決まっている。

ややこしいことに、昔は「軍事分野の無人の飛びモノ」といえば標的機とミサイルぐらいだったけれど、ISR 用途の UAV がワラワラと増えてきたり、自爆突入型 UAV なんていう UAV とミサイルの境界が曖昧なモノが出てきたりしている。

おまけに、その UAV も手で持ち歩けるコンパクトなモノから、下手な戦闘機より値が張る超高級品まで千差万別。電動手投げ式の RQ-11 Raven なら「墜とされても諦めがつく」けれど、RQ-4 だと「墜とされても諦めがつく」とはいかない。

そういう状況下で「ドローン」という言葉を使うのは、話をややこしくするだけで百害あって一利なし、じゃないだろうか。この単語を使った結果として、一方がいわゆる UAV、他方が電動式マルチコプターを連想して、それを前提として話を始めるようなことになれば、もう議論が噛み合うはずもなく。


だから自分が書くものでは、基本的に「ドローン」という単語は使わないことにしている。無人の飛びモノはいろいろあるけれど、「標的機」あるいは「UAV」といった具合に書いて区別するようにしてる。

あと、そこらで売ってる民生品なら「電動式マルチコプター」と書く。でも、電動式マルチコプターではない、民生用の無人の飛びモノがいろいろ出てきたらどうしよう… そんなのは現物が出てきてから悩めばいいか。

もっとも、「UAV」だって前述のように対象となる分野が広すぎるわけで、わざわざ「自爆突入型 UAV」などと書いて区別することもある。めんどくさいけど、仕方ない。

そういえば、米英軍では最近、"drone" どころか "UAV" という言葉すら使っていないことがある。代わりに "RPA" (Remotely Piloted Aircraft) あるいは "RPAS" (Remotely Piloted Aircraft System) という言葉を使う。

これは、「"Unmanned" と書くと、自律的に行動して勝手に交戦していると勘違いされそうだから、人間が遠隔操作しているということを明確にしたい」という、多分に政治的な思惑があってのことと思われる。

欧州共同の MALE UAV 開発計画が "Euro RPAS" と名乗っているのも、たぶん同じ。

かように言葉の使い分けというのは難しい。自分もまだまだ完璧にやれているとはいえないから、注意しないといけない。

同じ字面でも人によって解釈が違ってくるものというと、「新幹線」という単語にも似たところがありそう。分かりやすいところだと、営業上の言葉と法的定義としての言葉では指すものが違う。ただ、これは「ドローン」ほどグシャグシャなことにはなっていないけれど。


新しく出てきた種類の製品やサービスだと、用語の定義なんかが混乱するのは致し方ない部分がある。ところが「ドローン」の場合、すでに「標的機」というモノがあって、(少なくとも業界内では) そちらで馴染んでいた単語だったことが、話をややこしくしているような。

実際にそんな人がいるかどうか分からないけれども。もしも、意図的な混同を狙って「ドローン」という言葉を使う人がいたら、それは始末が悪い。あと、突っ込まれたときに逃げを打てるように、対象を明確に示す言葉を避けるとかね。

一方で、「UAV とか RPA/RPAS とかいう単語では一般人向きでないので、ドローンに (する | してくれ)」なら、自分が書いたものも含めて、少なからぬ実例がありそう。

でも、「分かりやすくするために、馴染み深い言葉、人口に膾炙している言葉を使え」とした結果として、話をややこしくしたり混乱を招いたりしたのでは、本末転倒だと思うよ ?

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |