Opinion : キッチリしすぎない方がいい場面 (2019/5/20)
 

もうだいぶ前の話になるけれど、「自衛隊を海外に派遣するなら、首相や防衛相が一度は現場に行ってきたら」という趣旨のことを書いた記憶がある。

いわんとすることは「派遣を命じたからには、どんなとこに派遣したかを知るのは筋だろう」と、もうひとつ。「ちゃんと国はあなた方に感謝しています」という姿勢を見せる、ひとつのシンボリックな意味合いがあるんじゃないかと思ったから。

ところがそれに対して「受け入れる側が大変じゃないか」という突っ込みを頂戴した。なるほど、いわれてみればそうなりそうなのは容易に想像できる。


仕事で何回か、米艦の入港取材に行ったことがある。一応、事前にスケジュールは渡されるのだけど、スケジュール通りに進まないことがある。だいたい、列車の入線と違い、フネの入港は時間がかかるし、作業がいろいろあるから、仕方ない部分もある。

そういえば出港の方も、「何時に出港」という告知は出ているのに、なかなかフネが出てこなかったことがあった。誰とはいわないが、HMS Montrose が晴海から出港するときがそれ。おかげで、こちらは寒風吹きすさぶレインボーブリッジの上で、ガタガタ震えながら待つ羽目になった。

でも、フネの出港も時間がかかる。まず、曳船を持ってきて舫い綱をつないで、離岸のために曳き出してもらわないと始まらない。なんてことを考えて、「しゃあないかなあ」と、自分で自分を納得させた。

自衛隊の式典なんかが典型だけど、それに限らず。日本の組織では往々にして「スケジュール厳守」にこだわる傾向があると思う。分単位でスケジュールを組んで、そのスケジュール通りにキッチリ進行させる。

もちろん、滞りなく進行できるように、事前に立て付けを入念にやる。まさに「ミリミリ」を地でいっている。

それはひとつの美風だという解釈はできる。ただし、いつでもどこでも同じ調子でやろうとすると、問題が生じるかも知れない。

たとえば、戦時中に「長官が最前線部隊を巡視する」なんていう場面がそれ。細かくスケジュールを組むのは、まあいいとしても。そのスケジュールを事前に無線で現地に流して、それが敵さんに傍受・解読された結果としてどうなったか。

無論、「暗号が解読されたのが悪い」という一面はあるのだけど。そもそも、戦時中に VIP のスケジュールを分刻みで立てて、それを前線に流した時点で、保全上の手抜かりがあったんじゃないだろうか。

そんなお国柄だから、「首相や防衛相などが海外派遣部隊の視察に行ったら、受け入れる側が大変」という指摘にも首肯せざるを得ない部分がある。


海外の現地視察は、国内の平時の行事と違うのだから、あまりキチキチに決めてその通りに実行しようとするのではなくて。むしろ、良くいえば柔軟に、悪くいえばテキトーにしておくぐらいで、ちょうどいいんじゃないかという気もする。

なんてことを書くと「何でもキッチリやるようにしないと身につかない」とかいう類の反論はありそう。でも、あらゆる局面でいい加減にしろといっているわけではなくて、場合によっては緩める必要もあるんじゃないの、という趣旨なのである。

普段、キッチリしている人が、状況に合わせてルーズにするのは、逆よりはやりやすいだろうし (もちろん、個人差はあるにしても)。

なんてことを思うのは、最初に決めた「行動予定」を本能的に固守しようとして、アホとしかいいようがない失敗につながった経験が、過去にあるからなんだけどね… (遠い目)

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