Opinion : 同盟国に動いてもらうには (2019/9/23)
 

先日、「日英インテリジェンス戦史: チャーチルと太平洋戦争」を買って読んだ。面白かった。おわり。

そうではなくて。

インテリジェンスというと、情報収集活動の部分に脚光が当たりがちではある (当事者はそれを嫌がりそうだけど)。しかし実のところ、集めたデータを整理・分析するのも大事だし、それをどういう経路でカスタマーのところに上げるかも大事。

ということが、この本を読むと分かる。それに、データの分析を担当する組織によって、それぞれマインド セットが違うから、同じデータでも担当の組織が変われば見方が変わる、というのはありそうな話。

それはそれとして。


前にどこかで、尖閣情勢に絡めて「日米安保の対象に含まれるかどうかという議論ばかりやっているけれど、まず自分で自分の領土を護ろうとする姿勢を示し、できる限りのことをすることが大事なんじゃないの ?」ということを書いた気がする。

「日英インテリジェンス戦史」で興味深かったのは、それと少し関連しそうな話。東南アジアに植民地を擁していたイギリスにしてみれば、そこに日本が資源狙いで乗り込んで来るのはありがたい事態ではない。でも、自力で排除しようとしても無理がある。

なにせタイミングは 1940 年から 1941 年の後半。ドイツ軍の英本土上陸こそ、なんとか回避できそうになったものの、各方面で戦力が伸びきった状態になってしまっている。とてもじゃないけど、東南アジア戦域に十分な資産は回せない。

ただ、この時点ではまだアメリカは中立国。するとイギリスにしてみれば、なんとかアメリカを味方に引き入れて加勢してもらわないと、という考えになってくる。ところがアメリカという国、何かというと自国に引きこもってしまい、他所のことには知らん顔を決め込むことがある。

それで、イギリスがアメリカを引っ張り込むためにどうしたか… という話は「日英インテリジェンス戦史」を読んでいただきたいのだけど。

キモは、単純に働きかけるのではなくて、そこで情報戦を駆使したこと。当たり前といえば当たり前の話だけど。

なにも戦争するときだけではなくて、そういうことのためにも、インテリジェンスは必要なんである。

よくよく考えれば、第一次世界大戦でも似たような話はあった。御存じ、ツィンマーマン電報をめぐるあれ。ちょっと意地悪な書き方をすれば、SIGINT で得た成果をうまく活用して、アメリカを同盟国として戦争に引っ張り込むことに成功した、情報活動の大成果である。


日米安保に絡めて「アメリカの世界戦略や利害を、自国の安全保障や利害にリンクさせて、うまいこと利用するぐらいでないと」というようなことを、だいぶ前に書いた記憶がある。それをうまいことやるには、やはり情報の収集・解析が大事なわけで。

ツィンマーマン電報級… かどうかはともかく、同盟国が自国にとって好ましい形で動いてくれるようにするには。単に期待するとか働きかけるとかいうだけでなく、同盟国をも情報収集・分析の対象にしないといけない (もちろん、敵国に対するそれとは違いがあろうけれど)。

だから、冒頭の話に戻ると「尖閣諸島が日米安保の対象に入っているという認識を持ってもらえば、有事の際には増援に来てもらえる」というだけでは、ちと単純すぎませんかね。と書いてみたかった。

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