Opinion : 安いは正義、の悪影響 (2019/10/7)
 

先週の話の続きみたいなことになるけれど。

よく「○○は高い、△△ならこんなに安い」という主張を展開する人がいる。メジャーなのは「飛行機は新幹線より安い」だけど、それは「新幹線 EX」の拙稿でも指摘した通り、飛行機の運賃の方が弾力性が高いから。各種の制約と引き換えにゲロ安の設定が出てくる場合もある、という話。

安いのには安いなりの理由があるわけで、遅延・欠航時の補償がショボかったり、変更がきかなかったり、払戻手数料が割高だったり、席の位置が悪かったり、席が狭かったり、空港や空港のターミナルが不便だったり、その他あれこれ。

「安いのには安いなりの理由がある」を無視して「LCC に FSC 並み」を要求する、いかれた人がいる。という話は以前にもどこかで書いたっけか ?

バリエーションとして「海外に行く方が国内に行くより安い」というのもある。そりゃもちろん、LCC のゲロ安運賃と新幹線の正規運賃を比較すれば、そういうケースも出てくるだろうけれど。

でも、旅行というのはたいてい、何か目的があってするわけで、あくまでその目的の範囲内で「どうすれば安くなるか」と比較検討するのが普通じゃないだろうか。まるで方面も内容も違う国内と海外を比較して「こっちが安い」とやっても意味は薄い。

目的が明確になっている場合、多少、高くついても (かまわん | 仕方ない)、ということだってあり得る。自分の例でいうと、グリペン E を生で見たければスウェーデンに行くしかなかった。少なくとも現時点では。


ただ、「海外旅行というと費用がかかる」という先入観があるのは事実なので、「あれ、意外と安く行けるのね」と知ってもらうことになら意味はある。実際、「ネリスに行ったときの航空券が、ほげほげ万円だった」といったら「あれ、意外と安い」といわれたことはあるし。

もちろんそれは、エコノミーのペックス運賃である。為念。

ただ、海外遠征するとなると、見えないコストが意外とかかる。もしもパスポートを持っていなければ、まずそれを取得するところから始めないといけないし、国によってはビザの取得も必要。電子認証でも有償だから、なにがしかの費用はかかる。

持ち物にしても、国内とまったく同じで済むとは限らないので、チョコマカと追加のコストがかかる。その一例が電源コンセントの変換プラグ。まあ、これは数千円のオーダーで済むけれど。

あと、普通に会社勤めをしている人にとっては、休暇の確保が大問題。上でネリスに触れたけれど、週末に欧米に飛行機見物に行けば、必然的に金曜出発・火曜帰着という日程になる。だから、週末プラス 3 日間の休暇を確保しないと行けない。

それに、自分みたいに「事前に下調べを徹底的にやってリスクを減らす」主義の人にとっては、その調査に意外と時間と手間がかかる。行き当たりばったりで「行ってみればなんとかなる」という人はともかく。

そういう、さまざまなコストをおしてでも海外遠征するのは、「現場や現物を自分の眼で見てみたい」という理由があるからで、「安いから」じゃない。自分の渡航目的が、いささか特殊なのは否定しないけれど。


とどのつまり、「費用が心理的障壁になっているのなら、意外と安く済ませることができるから行ってみては ?」というのはアリだけれど、「海外に行く方が安いのに、費用をかけて国内で旅行するなんて馬鹿馬鹿しい」となってしまうのは NG ってこと。

国内に目的がある人だっているし、時間の関係で国内でしか動けない人だっている。事情は人それぞれなのに、交通機関の「高い vs 安い」だけで話をぶった切るのは、乱暴としかいいようがない。

まず「旅の目的」があって、それを実現するのが最低限の条件なのだから、それを満たすために、ときには費用を (かけないといけない | かける方がいい) こともある。移動だけでなく宿泊にもいえることだけど、安全性や快適性のために費用をかける選択肢だってある。

何事においても、「安いは正義、高い金を払うのは愚か」などと決めつけてかかるのは、いかがなものかと思うのだけどなぁ。そういう論調が大手を振ってまかり通るのも、デフレの悪影響のひとつではあるまいか。

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