Opinion : 知らない人ほど夢を見る (2019/10/28)
 

いまやっている仕事の関連で、技術開発の段階に関する話が出てきている。もちろん、厳密に定義するならば TRL (Technology Readiness Level) という指標があって、なんと 9 段階もの細かい分類がある。

ただ、それは実際に技術開発や評価に携わる人だから必要な話で、部外の一般人にとっては、もっと大雑把な区切りで済むかも知れない。たとえば「海のものとも山のものともつかない段階」「実現性が見えてきている段階」「実用技術として製品やサービスに組み込める段階」ぐらい。

なんだけれども、新しいネタに飢えているニュース屋さんが、「海のものとも山のものともつかない段階」のものを「実用技術として製品やサービスに組み込める段階」と勘違いしかねないような報じ方をすることがある。

あるいは、報じられた段階では現時点でのステータスを正しく認識していても、それを受ける側が勝手に舞い上がってしまうこともありそう。本来なら、そうならないように、報じる側が配慮しないといけないと思うのだけど。なのに。


目下の流行りワードであるところの人工知能 (AI : Artificial Intelligence) も、そんなところがあると思う。ニュース種になるときには、とりあえず何でもかんでも一緒くたにして「AI で○○する」という扱いになるし、逆に、「AI で○○する」というだけでニュース種になる。

もちろん、研究者や技術者は真剣に、真面目に開発に取り組んでいるのだろうけれど。でも、部外者は往々にして、目に付きやすいキャッチーな部分に惹かれるものだし、熟成度や能力的な限界などお構いなし。万能の夢のような新技術が明日にでも世界を一変させるぞ、ぐらいの勘違いもやりかねない。

昔から似たような話はいろいろあって、たとえば自分が大学を出て社会人になった頃だと「ファジィ制御」。ええ、家電から地下鉄まで、猫も杓子も「ファジィ制御で○○しました」が出るわ出るわ。

そういえば、「Web 2.0」ってなんだったんでしょうねえ、結局のところ。

おっとっと、嫌みな性格が出て蒸し返してしまった。ことに情報通信技術が関わる分野では、「新技術に過大な夢を見ては使い捨てにする」パターンが多すぎやしないだろうか。それじゃあ、真面目に研究している研究者や技術者にとっては、いい迷惑。

だから、

  • ○○で△△が変わる
  • 新しい○○があれば、もはや従来の△△は (時代遅れ | 不要 | 無駄)
  • ○○で△△億円の規模を持つ新産業が
の三連コンボを連呼する人は怪しいと思え、って話になるわけ。この手の煽り方をして「バスに乗り遅れるな」とやる人ほど、実はちゃんと分かってない可能性がある。あるいは、分かってない人を流行語でだまくらかそうとしている可能性がある。

手厳しい言い方をすると、過剰な夢を煽って「時代の先端を行くイケてる自分」をアピールしてるだけかもしれない、と思うから。本当に分かってる人なら、上で書いたような煽り方はしないはず。


あと、「新技術」と「それをどう活用して勝つか」って別の問題だから。新技術さえあればゲームチェンジャーになるんじゃなくて、その「新技術」と「勝ちパターンのために技術をどう使うか」のコンボが重要だから。

という話を忘れて (または無視して)、「新技術」や「先進技術」に夢を見るだけだったり、他国の動向を見て「バスに乗り遅れるな」と焦る人ばかりだったりすると、戦略不在、ビジョン不在になる。

最近だと「ドローン」「AI」を連呼する人が陥りがちな落とし穴だけど、単に UAV や AI を使えばいいって話じゃないから。それより先に、勝つためのビジョン、勝つためのパターンを見出すことが大事だから。

困ったことに、「いま勢いがあるものは、その勢いがずっと続いて誰も止められない」ように見えちゃうから、いったん煽られて加速がつくと、なかなかブレーキが効かないのよね…

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