Opinion : 目に見えない価値におカネを出すということ (2019/12/9)
 

なぜか定期的に (?) 湧いて出るのが「LCC ならこんなに安いのに、それと比べると新幹線の運賃・特急料金は高すぎる」と書く人。Twitter でそれをやると、たいてい鉄道クラスタから効力射を浴びる。いや、自分も浴びせたことがあるけど。

輸送業では基本的に、距離とスピードとサービスに応じた対価を支払う形になるけれども、実のところ、サービスはさらに「ハード面のサービス」と「ソフト面のサービス」に分類できる。(こら、「ソフト麺」ではない > 阿波徳島)

ハード面のサービスは目に見えるから理解しやすいけれど、ソフト面のサービスは目に見えない部分がある。もとい、正確にいうと「実際に利用してみないと分からない」となる。


それを実感したのが、スウェーデンからの帰りにアップグレード特典を投入して利用した JL413 のビジネスクラス。「疲れて帰ってくることになるだろうから、フルフラットでゆったりしたい」という願望に「期限切れが近いマイルがある」が重なったので発動した次第。

スペースが広いとか、シートをフルフラットにしてマッタリできるとかいうのは、ハード的な話。これは現物に乗る前から、ある程度は把握できる。細かい部分の使い勝手になると、実際に利用してみないと分からない部分が多いけれど。

あと、食事の内容が違う。これも事前に把握できるし、理解しやすい種類の話。

ところが、実際に利用してみて初めて分かったところもある。それは何かというと、きめ細かで行き届いたサービス & 気配り。なにしろ、乗客の人数と CA さんの人数の比率が、エコノミークラスとはぜんぜん違う。

もっとも、これは日系キャリアだからで、米系キャリアあたりだと、また違ったことになるかも知れない。

いちいち実例を挙げることはしないけれども。なんというかその、「一人一人の乗客と CA さんが個別に向き合って、コミュニケーションしながら、サービスを提供する / 受ける」のがビジネスクラスなんだな、と感じた。

そういう気配りを受けることに慣れていないと、妙に堅苦しくなっちゃったり挙動不審に (?) なっちゃったりするものだけど、これは慣れてくれば解決できそう。そうなれば、ゆったりしたスペースでお酒をかっくらって爆睡、なんてこともしやすくなるんじゃないかなぁと。

たぶん、新幹線のグランクラスにも同じことがいえる。と思ったのは、「シートのみ」と「フルサービス」の両方を利用してみたり、取材に行ってお話を伺ったりしてみた結果のこと。ハード面にだけ目がいくと「シートのみ、の方が安上がりでいい」と思いそうになるけれど、違うんだな、これが (←モルツじゃない)

たぶん、「接客」が関わるすべての業種において、程度の差はあれ、同じことがいえるのだろう。しかし、「個別に向き合う接客」ってマニュアル化しづらい種類の話だから、サービスを提供する側は大変そう。

ついでに書くと、「移動について回りがちなストレスや負担を減らすこと」が、上級クラスや上級会員の根源的な価値で、それもまた、ハード面よりもソフト面が占める部分が多いんじゃないかと。


鉄道でも飛行機でも、報道公開の席ではそういうソフト面まで見せられるものではないし、取材する側もハード面にフォーカスしてしまう。これは仕方ない。いちいち機内/車内サービスのロールプレイまでやってたら、時間がどんだけあっても足りない。

「報道公開で分かること」と「実際に運航/運航の現場に居合わせてみないと分からないこと」がある。実際に取材に行って記事を書く立場の人間が、これを書くのは内心で忸怩たるものがあるのだけど。

だから、報道公開に行って「これはいいな」と思ったものについて、後で自腹を切って乗りに行ってみることもある。それをやらないと分からないことがあるから。

その「実際に利用してみないと分からない」こと、「目に見えない価値」といえることに、おカネを出す意味があるという考え方。これ、冒頭で取り上げたような「とにかく安いが正義」の人には理解しがたい種類の話なのかも知れない。

もちろん、「とにかく安全に運んでくれればいいから安くしてくれ」というのも、ひとつの考え方ではある。でも、それに凝り固まって他の考え方をバッサリ否定するのは、ちと狭量すぎるのではないかしら ?

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