Opinion : 結論先行型情報評価の悪い事例 (2020/1/20)
 

初っ端から煽ってみよう。2 週間ばかり前に「第三次世界大戦だ〜」と煽っていた皆さん、息してますか ?

そのとき書いたように、個人的には「第三次世界大戦なんてありえねー」と思っていた。だいたい、「世界大戦」というからには世界規模でふたつの陣営に分かれてドンドンパチパチやらないといけない。

せめて、中露がイランに加勢して参戦するぐらいのことが起こらないと、世界大戦なんていわない。(実際には、本格的な国家同士の交戦までエスカレートするなんて思っちゃいなかったけど) アメリカとイランの間で花火が上がったぐらいで「世界大戦」とは、臍で茶が沸く類の話でしかない。

そんなこといったら 1991 年の湾岸戦争の方が、よほど規模がでかかった。最近の若い子は湾岸戦争すら「歴史の中の出来事」だから、ピンと来ないかも知れないけれど。


さて。そもそも、米軍の動員状況やその他の戦備状況を見ていれば、「世界大戦」スケールまで考えていないことは容易に読めたはず。Twitter で例として挙げたのは予備役動員だったけど、2002 年の末から 2003 年の初めにかけての動員人数の急上昇ぶりを見て「こりゃ本気だわ」と思ったのと比べれば、今年初めの動向なんて平時の延長線である。

なのに、両国首脳の言葉の応酬に釣られて「第三次世界大戦だ !」と吹き上がる人が続発してしまった。なんでやねん。

と書いてはみたものの、見当はつく。「戦争の危機」がないと「戦争反対の声を上げる自分」が実現できない。たぶん、そんなところじゃなかろうか。何かに反対するためには、反対する対象がいないといけない。これは以前にもどこかで書いたか。なにも「戦争反対」に限ったことじゃない。

しかも「世界大戦」なんて言葉を何の疑問も抱かずに使う、あるいは釣られる時点で、湾岸戦争のときよりもエスカレートしてしまっているように思える。湾岸戦争のときに「第三次世界大戦だ !」なんて吹き上がってた人、いたかなあ… ?

いや、実際には存在していたけれど、自分の視界内に入らなかっただけ。かもしれない。でも、そんな騒ぎ方をする人が大々的にいれば新聞種になりそうなものだし、ニュースに目配りしていれば視界に入らないわけがないと思うのだけど。

動機の話はともかく、これって「情報評価の失敗」という見方もできる。だいたい、国家首脳同士がネットでバトルするなんて妙な時代になったものだと思うけれど、そうやって出てくる「分かりやすい言葉の応酬」だけ見てると、簡単に釣られる。

国家が国運を賭して大戦争を始めるといったら、そりゃもう大変な準備が必要になる。人もモノもべらぼうな量が動く。それを完全に隠匿するなんてできない相談。昔と比べても、そういうのを隠蔽するのは難しい。少なくともいわゆる西側諸国ではね。

だいたい、米国防総省が出した 2002-2003 年頃の予備役動員状況データ (これはレッキとした公開データである) みたいな材料をウォッチしていた身からすると、先日の騒ぎは「見るとこ見れば分かるのになあ」となってしまう。

もっとも、2001 年の秋から何年もの間、予備役動員のデータを拾って Excel シートにまとめていた暇人が、日本に何人いたかは知らない。


とどのつまり、「目の前の事象を、願望や先入観に合わせてしまうような情報評価をやってるからダメ」って話。

情報評価に際して、さまざまな仮定シナリオを用意して「このシナリオだとどうか、別のシナリオだとどうか」とやるのは基本。でも、それには幅を持たせた複数のシナリオが必要になるし、余計な思い込みは排除しないといけない。

だから、世の中のさまざまな事象を手当たり次第に自分の「反○○」「○○嫌い」にこじつけるようなことをしている人には、どだい、まともな情報評価なんてできっこない。結論が先に決まってるんだもの。

実のところ、イラク戦争の開戦決定に至る経緯って、これに近いところがあるように思えるけれど。ただ、イラクが過去に NBC 兵器の開発・配備に血道を上げていたのは事実であったし、化学兵器を使ったこともあった、とは指摘しておく。

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