Opinion : "二度と再び" という地雷 (2020/5/18)
 

人間、好き好んで痛い目に遭ったり辛い目に遭ったりする人は (たぶん) いないわけで、そういう経験をすれば「もうこれっきりにしたい」と思うのが普通だと思う。いやその、「横須賀ストーリー」の話をしているわけではないけれど。

不可抗力のものはともかく、自分が頑張ってどうにかできるものであれば、「同じ (失敗 | 過ち | 悲劇) は、二度と繰り返すまい」と考えるのは当然の流れ。個人レベルに限らず、組織でも国家でも、たぶん同じ。

ただ、これも度が過ぎたりやり方を間違えたりすると、却って自滅の原因につながりはしないかしらん。というのが今回のお話。


たとえば国家レベルの話だと、「過去に指導者が過ちを犯したり、なにか弱みがあったりしたせいで外敵の侵略を招いてしまい、多数の犠牲者が出て国土が荒廃した。二度と同じことは繰り返させない」という展開。ありがちである。

では、「外敵の侵略を繰り返させない」ためにどうするか。もちろん、物理的な阻止手段としての軍備の充実は必要不可欠であるし、経済力をつけるとか、外交努力をするとか、秘密工作に精を出すとかいう話もあろう。

けれども、それだけで済ませなかった事例もある。

日本みたいに周囲を海に囲まれていると事情は違うが、地続きだと「脅威との間に緩衝地帯になる国を置く」なんて手口がある。ただし、その緩衝国は自国のいいなりにできないと話にならないから、それが最大のハードルかも。違う民族が暮らしている独立国であれば、餌をぶら下げるにしても力で押さえ込むにしても、100% うまくいくとは限らない。

それでうまくいけばまだしも、軍備にリソースをつぎ込みすぎて国が傾いたり、緩衝地帯にするつもりだった衛星国がいうことを聞いてくれなかったり、衛星国にいうことを聞かせようとして軍事介入したら大反発を食らったり、なんてことがあったかもしれぬ (すっとぼけ)。

逆に、緩衝国を周囲に置くわけには行かず、どうしても仮想敵国が国境を隔てて隣接してしまうので、何かあるとすぐに徹底した反撃に出てしまう。これも「あるある」。一発撃たれたら 10 発ぐらい撃ち返してしまう、のデンで。

これはこれで、また大反発を食らったり、外野から非難されたりしやすいパターンではある。そこで「外野が何をいおうが、自国の生存のためにはこうしなければならぬ」といって押し通すのは、並大抵の国ではできないこと。

それがいいか悪いかはともかく、国のトップから国民のレベルまで、よほど覚悟を決めていなければ、こういう真似はできない。

「二度と再び」という考え自体は否定すべきものではないけれど、それを実現する際に何をするか。または、どこまでするか。それの度合により、ある悲劇やトラブルを避けようとして、却って新たな火種を撒いてしまうことになるのかも知れない。


なんてことを思ったのは、「COVID-19 を義和団の乱になぞらえて、被害者意識におびえる中国」なんて記事を見かけたから。なるほど、過去の歴史に起因する被害者意識からのリアクションが過度に出てしまっているのだと考えれば、昨今の行状もありそうなことだと思う。

ただし実際のところは、それだけに留まらず「他国に好き放題にされないためには、自国が中心となって世界に君臨しなければならぬ」というところまでイッちゃってるようにも思えるけれど。

過去に世界をリードしたとか、世界の各地に乗り出してブイブイいわせていた歴史があって、その後で落ちぶれたり国土を蹂躙されたりすると、その後のリアクションが強く出てしまう、ということなんだろうか。

しかしそれだけなら、他にも似たような境遇に置かれている国はある。でも、そちらの国はそうしていない (どこのこととはいいませんけれどね)。
そうなると、「世界に君臨するという夢を国民に見せ続けなければ、現統治体制を維持できない」という強迫観念に行き着くのかな、と思った。

しまった。もうそろそろ止めて別の話にしようと思いつつも、またもや中国がらみのネタを書いてしまった。

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