Opinion : ホントに大事なのはそこじゃない (2020/8/17)
 

たぶん通年で起きていることなのだろうけれど (いちいちカウントしているわけではないので、実数は知らない)、ことに 8 月になると盛り上がるように見受けられるのが、太平洋戦争の評価をめぐるあれこれ。のような気がする。

「軍人が前回の戦争に備える」と同じデンで、「反戦運動家は前回の戦争に反対する」し、それにカウンターを当てる側もまたしかり。ただ、カウンターを当てて擁護に回るにしても、なんかピントがずれていませんか。というのが今回のお題。


一般論として、「太平洋戦争は無茶な戦争」というのがあり、その一要素として「日本の武器は質が悪い」というのがある。そういう論が出てくれば当然、反論する人も出てくる。何も今に始まった話ではなくて、昔のパソ通時代から同じである。

でも、その手の「帝国陸海軍の武器に対する擁護論」って往々にして、枝葉末節の話に入り込んでしまっているように思える。たとえばの話、「38 式歩兵銃は時代遅れじゃない、他国も大して変わらないし、質の良い銃だった」というのがある。

でもねえ。いくら質の良い銃でも、そこで撃つ弾を潤沢に供給できなければ、実戦の役には立たない。こっちが残弾を数えながら一発ずつ狙いをつけて撃っているときに、相手が「弾の使用は無制限」といってバリバリ撃ってきたのでは、お話にならない。

なんて話になると「貧乏が悪い」といいだす人が出てくる。確かにカネの面でも資源の面でも恵まれていなかったのは事実。でも、それならそれで、どうして小銃や機関銃の実包を何種類もこしらえて、銃器との組み合わせをパズル化したのか。

カネや資源に乏しいなら、それを無駄にしないようにと考えなければならない。なのに、わざわざ実包を何種類も作れば、貴重なリソースを分散するだけ。しかも兵站支援の手間は大幅に増えてしまう。

ついでにいえば、太平洋戦争中に出てきた新型機開発計画のあれこれ。アメリカならまだしも、技術者の頭数が限られている日本で、そんな「アレも作れ、これも作れ」とやったら、リソースが分散して虻蜂取らずどころじゃなくなる。しかもさらに、既存機の改良計画まで割り込んでくるのだから。どうしてこうなった。

戦闘糧食にしても、いろいろ考えて作ってみるのはいいけれど、それだけでは始まらない。作ったモノを実際に最前線に送り届けて、それで経戦能力を維持できたのなら褒められる。でも、「こんな戦闘糧食を開発していたのだから兵站軽視ではない」といわれたら、「は ?」となってしまうし、まさに牽強付会の見本みたいな話。

しかも、身の程知らずに赤道の向こう側までぶん回しを広げてしまったのだから、兵站支援の体制が追いつかなくなるのも道理。

発動機の話だって同じ。「47 戦隊ではハ 45 の可動率を高く維持できていたじゃないか」という話を、その昔に NIFTY-Serve で主張していた人がいたけれども。しかし、一部の部隊でしか高可動率を維持できなかったこと自体、兵站支援のシステム作りに失敗していることを示している。

「烈風の空力特性は傑出していた」論にしても、似たところがある。それは図面の上の話であって、図面通りのものを量産できてから出直していらっしゃい。としかいいようがない。

自分が「太平洋戦争はマネージメントの敗北」というのは、こういう話があるから。


とどのつまり、枝葉末節の話を引っ張り出して「この部分は優れていた」とやっても、根本的な「戦争を戦うためのシステム」がダメでは、全部ダメになる。置かれている状況、自国に欠けているものや足りないものに対する冷静な認識。それが揃った上で、どうすれば勝てるか、せめて負けずに済むか、を冷静に考えないといけないのに。

もっとも、その話を引っ張り出されると旗色が悪いから、逆に枝葉末節の話に逃げ込むのかも知れないけれど。

「システム作り、体制作り」が大事なのは今も同じだし、なにも戦争に限らず、ビジネスでも何でも同じ。レーシングチームのマネージャーをやってた人が「勝てるかどうかはチーム体制次第」なんてことを話していたけれど、それもたぶん、根っこは同じ。速いクルマ、速いドライバーだけでは勝てない世界であるらしい。

でも、そういう部分の話って分かりにくいし、華もないから、なかなか話題にならない。話題にならないと、システム作りや体制作りに取り組むモチベーションにつながりにくくなり、結果としてますます改善が遅れてしまう。そちらの分野に、いい人材を集めるのも難しくなるし。(人間、往々にして華がある分野、主流の分野に行きたがるもの)

さて、この問題、どう解決したものか…

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