Opinion : 乗り放題という名の地雷 (2020/8/24)
 

前に、「高速 1,000 円」政策のことをボロカスに書いた。それに限らず、人間、往々にして「○○し放題」に弱い。自分は小食だからぜんぜんときめかないけれど、よく食う人なら「食べ放題」には釣られそう。

ただ、「食べ放題」なら自分のお腹がずっしり重たくなったり、体重が増えまくったりする程度の被害 (?) で済むけれど、こと交通の話になると、笑ってばかりもいられなくなる。

もともと、盆暮れ正月・ゴールデンウィークの高速道路は、不慣れなドライバーが高速道路上に繰り出して来る場面が増える。すると当然ながら、中には事故る人も出てくるし、そうでなくても「プロトコルが分かってない」人が増えてトラブルの元。まさにデンジャー ゾーン。

そこでさらに「一定金額で走り放題」となれば、「安く遠出ができる」といって、不慣れなのに遠距離運転をやらかす人が増えるんじゃないかと思っている。

慣れて、経験を積んでいる人なら長距離ドライブの勘所は分かっているから、休憩を入れるタイミング、ペース配分、混雑の回避、そして注意を要するポイントも分かっている。でも、これはすべて、不慣れなドライバーにとっては未知の領域。

なのに「安く遠出ができるぞー」といって不慣れな遠出を断行すれば、いわば無謀な突撃になってしまう。でもって、遠出だから早く着こうとしてアクセルを踏んづけて、オラオラ運転をするクルマが続発する (なぜか、えてしてミニバンである)。

そんな、ちょっとぐらい速く走ったところで、途中で大休止すれば、稼いだ時間は軽く吹っ飛んでしまうのに。

「安く遠出ができるぞー」といって無茶をする… というとしばしば引き合いに出されるのは、「18 きっぷで無茶な遠出をする」ってやつ。高速道路とはまるで違うノウハウが求められるけれど、これとて「勘所を承知している経験者」vs「不慣れなのに無茶なスケジュールを立てる初心者」という図式は同じ。

たとえば、首都圏から普通列車を乗り継いで北上するとなった場合。自分ならそれを何度もやっているから、要注意ポイントは分かっている。スケジューリングに際して、ところどころに余裕を持たせたり、ダイヤが乱れたときのリカバリーを考慮したりといったことも、息を吐くようにやれる。でも、これって経験のなせる技だから。

たぶん、不慣れな人だと時刻表も読み慣れていないだろうから、「ジョルダン乗り換え案内」の「18 きっぷ検索」あたりでスケジュールを立てそうだけれど。すると、余裕ゼロ、ひとつ崩壊したら全崩壊、そして時刻表慣れしてないからリカバリーも不可能、なんていうオチになりゃしないだろうかと。そんなことを思ってしまう。

あと、休憩・補給のポイントにできそうな駅がどこなのかも、経験を積んでいれば頭に入っている。だから、そういう駅で少し間合いをとって、補給ポイント兼バッファにする。でも、これもまた、経験があり、どんな場所かを知ってるからできること。

それを知らないと、乗り換えポイントだからといって安直に「米原で食い物補給」とか「小牛田でひと休み」とかいうことを考えやしないだろうか。あ、備後落合は乗り換え以外のことは何もできないので !

なんて書いていると、少し前に Twitter の TL を賑わせていた「旅程を組むのは特殊技能」という言葉の意味がよく分かる。


誰もが最初は初心者だから、経験を積むプロセスは必要だけれど。それならそれで、いきなり無茶な遠出はするなと申し上げたい。まずは近場で、一日分の元が取れるぐらいのところで経験値を上げようよと。

もっとも、これは「安く遠出ができる !」と煽る記事や番組にも一因があると思う。高速道路の長距離運転でも、普通列車の乗り継ぎ大会でも、あれはもはやレジャーというより修行だという認識で臨まないと。

不慣れな人は、間違っても「東京から福岡までクルマで行こう」なんて考えちゃあいけない。たとえ高速道路が 100 円均一になってもやらない方がいい。

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