Opinion : いまの課題に全振りすると後でこけるかも ? (2020/10/19)
 

「ホンダ神話 II」の中に、「企業は本来、明日利益が上がるところに資金をつぎ込まねばならない」という一節がある。

「明日、利益が上がるところに資金をつぎ込む」という指針があるのなら、それに反する別の指針もあるわけで、それは時系列を前後にずらして「いま利益があがるところに資金をつぎ込む」と「もっと将来、利益があがるかも知れないところに資金をつぎ込む」という話になる。

もちろん、先行投資は大事なこと。ただし程度問題で、「どこまで利益を生むか分からないのに、大量の資金をぶち込んでしまった」となると、リスクというより賭けの領域に突っ込んでしまう。もしもそれが当たらないと、大火傷する原因になる。そんな話になるのかなと考えてみた。


では、「いま利益が上がるところに資金をつぎ込む」はどうか。これは分かりやすい。すでに「利益が上がっている」という実績があるわけだから、そこにさらに資金をつぎ込むのは正しい方向のように見える。

ホンマかいな ?

いま利益が上がっているということは、すでにピークに達しているということではないか ? それに、利益が上がっている分野があるとなれば、参入するプレーヤーが増えて競争が激化する。すると往々にして、体力勝負、血で血を洗う消耗戦にもつれ込んでしまう。

実際問題として、「○○ブーム」に乗っかって新規参入者が続々と現れたかと思ったら、ブームが去ってしまったり、過当競争でみんな疲弊してしまったり、といった場面はちょいちょい見られる。

しばらく前のタピオカがそうだし (ずーーーーっと昔にナタデココという先例があったのを忘れたか ?)、昨今の「マスク相場暴落」もしかり。思い知ったか転売ヤー。

COVID-19 のせいでとんだダメージを受けている運輸・観光業界にしても、特に影響が大きかったのは、インバウンドに全振りしたところだったんじゃないだろうか。その前に「中国人の爆買いブーム」というのがあって、それに乗っかったと思ったら転げ落ちた会社があったようだけど、歴史は繰り返す。

いつも書いているように、ブームというのはいずれ終わるもの。何事も、勢いがあって上り調子のときには、その勢いが永遠に続くように思えるし、下り調子のときにもそれが永遠に続くように思えてしまう。でも、たいていの場合にはそうならない。

なのに、ブームという「いま利益が出ているところ」に全振りしてリソースをぶち込めば、そりゃ大火傷する事例も出てくるでしょう。と思わざるを得ない。でも、大火傷から挽回しようとして、次のブームに乗っかろうとする人もいるんだろうなぁ。


商売の話に限らず、他の分野にも似たような話はあって。

たとえば安全保障の分野で、「いま、目の前にある脅威」に全振りすると、どうなるか。「いま、目の前にある脅威」にばかり眼が行ってしまい、「将来、脅威になるかも知れないものの萌芽」を見落とすことになりはしないか。

そして、その萌芽が成長して花を咲かせたときに、「新たな脅威が現出した」といってパニックを起こす。なにせ根本的なマインド セットが変わっていないから、そこでまた、新たな「いま、目の前にある脅威」に全振りしてしまい、以下無限ループ。

ウェポン システムの RDT&E ってべらぼうな時間がかかるものだから、まだ萌芽の段階にとどまっているものが、実用品として世に出てくるまでには、どうしても間が空いてしまう。なんだけれど、どこかに兆候・予兆はあるはずで、それを見逃していると、実用品になった時点で初めて慌てることになる。

RDT&E に時間がかかるケースばかりとは限らない。アイデアはいいんだけれど、周辺技術が追いついていなかったせいで、世に出るまでにえらい時間がかかった。なんてケースもある。

まわりがバーッと盛り上がってから「バスに乗り遅れるな」とやることばかり繰り返していると、将来につながる萌芽や予兆や兆候を見つけるための眼力が劣化すると思うのだ。

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