Opinion : 苦境にある組織のトップにやって欲しいこと (2020/10/26)
 

「丸」の海外ニュース欄で、毎月のように「みんなコロナのせいだ」と題したネタを取り上げているけれど、本当ならこんなタイトルがつくネタは願い下げである。なにも、連続洋上行動日数の記録が伸びてしまう話に限ったことではなくて。

分かりやすいところだと、エアラインは悲鳴を上げているし、旅客機は売れなかったり納入できなかったりするし。そんな状況では、三菱スペースジェットにトバッチリが及ぶのも無理はない。三菱のせいで納入が遅れるとか量産移行ができないとかいうならともかく、当事者がコントロールできない外的要因のせいで需要がトンだとなっては、どうにもやりきれない。


ただ、国でも企業でも、苦境にあるときこそトップの見識や力量が問われる。たとえば企業の場合、経営状態がやばくなれば、経費節減の話はお約束のように出てくる。そこでは人減らしという話は毎度の恒例。

ちょいと乱暴に単純化すれば、利益とは売上から経費を引いた差分だから、利益が出ない状況であれば、売上を伸ばすか経費を減らすか、という話になる。そして売上が急にワーッと伸びる見込みがなければ、経費削減から手をつけざるを得ない。

しかしそれを社員の側から見ると、ありがたい話じゃない。そして、会社の将来に見切りをつけて、優秀な人が先に去って行ってしまう、なんてこともありがち。しかしそれでは、業績回復がさらに難しくなってしまう。残された社員の能力云々という話だけではなくて、その残された社員の士気にもよからぬ影響があるから。

となるとトップがやるべきは、単に経費削減を図るだけではなくて、「どうやって回復するか」「どういう将来像を目指すのか」というビジョンと、それを具体化するためのロードマップを示すこと。なぜかといえば、それは将来に対する不安感、前途に対する不安感を食い止めるために不可欠の要素だから。

もちろん、そのビジョンがあまりにも浮世離れしていて、「そりゃ実現不可能だろう」と思われるようなものではダメだけど。却って絶望感を高めてしまう。

経費節減は、不可欠だけど後ろ向きの対処な訳で、それだけでは立て直しにならない。立て直すためには、新たな将来像を描き出して、そこに向かって進んでいくことができなければ。

そういう意味では、ベトナム戦争の後、1970 年代の後半から 1980 年代にかけての米陸軍の立て直しは、ひとつの参考事例になるかも知れない。

その辺の詳しい話は「トム・クランシー 熱砂の進軍」で詳しく書かれている。普通なら「いったいどこから手をつければいいんだ」となりそうなもの。装備は陳腐化して、現場は荒れて、ソ聯軍は続々と増強されていて (少なくとも外側からはそう見えていた)。

そんな中で、「自分達はこうやって勝利者になるんだ」というビジョンを打ち出し、その下でドクトリンの策定、募集・訓練の見直し、装備の更新を進めていった。それが間違ってなかったことは湾岸戦争で証明されている。

これは極端な事例であるけれども。強大な壁、ライバル、あるいは仮想敵に直面して「どうやったら勝てるんだ」という不安感が蔓延しているときこそ、新たな「セオリー オブ ビクトリー」を見つけ出さないと。だいたい、従来のやり方でうまくいかなかったのだから、それを続けていても先は見えない。

新たな「セオリー オブ ビクトリー」をあるべき将来像として掲げた上で、どうやって実現するかという道筋を示したり、必要なリソースを確保したりするのは、組織のトップにしかできないこと。

(企業の場合だけれども) そこで単なるコストカッターがやってきても、たぶん解決にならない。製品・サービスに惚れ込んで寝食を忘れるようなトップが来ないと。


ここまで書いてきたのは「内輪向け」の話だけれど。実のところ、外部に対しても同様に、新たなビジョンを示すことは重要。そうしないとカスタマーから見放される。企業であれば、商品やサービスを買ってくれる人がカスタマーだけど、国防組織なら国民がみんなカスタマー。

国民が「国の護り」に不安を抱いているときに、それを払拭するか、少なくとも払拭のための道筋を示すことができなければ、それはカスタマーに対する裏切り。国民に対しても「こうやって国の護りを確かなものにします」とやっていかないと。単に個別のハードウェアとか技術の話ではなくて、もっと包括的なレベルで。

専門用語で書いても国民が理解するのは困難だと思うかも知れないけれど、そういうときのために外部の「通訳」が居るんですぞ ?

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